垂直落下式サミング

LOGAN ローガンの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

LOGAN ローガン(2017年製作の映画)
5.0
世界を呪いながら生き続ける不死身のスーパーヒーローが行き着く先を描いたX-MEN渾身の終着点。MCUの一大クロスオーバー企画が注目を浴びる一方、X-MENのシリーズは地味な作品だったが、長年同一のキャストによってプログラムピクチャー的に続いてきたものには別種の価値が生じていた。
新世代が生まれずミュータントは絶滅の一途を辿る世界で、種の黄昏を受け入れたかつての英雄はひっそりと身を隠していた。男は課せられた最後の使命を全うし、此れにて物語は最終幕という形で静かな大団円を迎えるに至るのである。
冒頭、しょぼくれたローガンがチンピラに襲われて、フラフラとしながらついにウルヴァリン性を発揮する場面にハッとさせられ、ブライアン・シンガー版の表現が如何にマイルドなものだったのかを思い知らされた。
喧嘩を吹っ掛けてきたのはチンピラの方なのに、目の前でおこる惨劇にドン引きしてしまう。確かに、シリーズを重ねる毎に少しずつ切り株表現が増えていったが、意外と今までの戦闘シーンでは誤魔化されていた人体の切断が真正面から描かれており、彼の鉄爪を突き付けられた人間の死が克明に撮されていた。
銃を構えた腕を切断する。右フックで眉間に突き立て頭蓋を叩き割る。アッパーカットで下顎を貫き脳天を串刺しにする。健や靭帯を切り刻み打倒した後に胸に突き立て蔵腑を抉る。ヒーロー映画の善玉の体内にヤッパが内蔵されているというのはやはり刺激的だ。
描かれるのは父性の復活と次世代への継承。ヒューマンドラマと共に、ヒーローの善行のその先には何が待ち受けているのかをこれでもかと生々しく描くことで、スーパーパワーなる先天的な才能が持つ呪いのような側面に目を向けされられる。
世界は残酷で、自分はクズかもしれない。永遠の若さとか無茶いうな、人間は老いるしデブるし禿げる。無尽蔵なんてない。いつか枯れるんだよ。それでも、強い人は弱い人を守るために、ガタのきた身体で戦わなければならないのである。かつてのヒーローがもう一度立ち上がるとき、彼はようやく自分を取り戻すのだ。漫画映画の枠組みでここまでやるとは…。シリーズのみならず今流行りのマーベル一大クロスオーバー企画さえ陳腐化させ否定しかねない訴求力がある。
ウルヴァリンの最後の言葉が胸を打つ。継ぎ接ぎで不揃いだったX-MENシリーズが、あの一言によって、ローガンという男の物語として一本の線となり、二世紀を生きた古豪の最期にふさわしい形で劇終をみせたと思う。劇中に引用されるある映画のように詩情溢れる西部劇だった。