紅蓮亭血飛沫

LOGAN ローガンの紅蓮亭血飛沫のネタバレレビュー・内容・結末

LOGAN ローガン(2017年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

もう生きる事に疲れ果てた死にたがりの老兵と、これからの未来がある少女の邂逅。
その少女の未来を、疲弊し切った老兵であり、X-MENの代表的キャラクター・ウルヴァリンことローガンが背負う事となった本作は、骨太なストーリー構成に重きを置いた作品となっています。
ドラマに力を入れた事もありアクション面は少な目、というかウルヴァリン自身が衰弱してしまっている近未来設定なわけですから、必要にアクションさせるようならそれこそ彼自身が途中で力尽きてしまいそうなので許容内ですね。

例えるなら本作は、LAST OF USに近いですね。
ミュータントがほぼ全滅した荒廃した世界で、生きる意味を失っているかのように崖っぷちにいる高齢の男性と、自分を兵器として取り扱おうとする大人に追われる少女が旅をする物語・関係性はいい題材だな、と。
本作がこの点を昇華させる事が出来たのは、X-MENという作品・世界観で生きる事に注力していたからだと思います。
X-MENが数あるアメコミ文化の中で特筆される点は、ミュータントという存在を恐れる人間達からの差別・偏見による奥深いドラマにあります。
ミュータントを人間として扱わず、兵器として利用しようとする者、ミュータントが持つ能力を障害のように捉える者…と、人間から受け入れられない存在として描かれるのがX-MENの、ミュータントの大きな特徴です。

それが本作では、プロフェッサーやマグニートー達が争い合った時代は去り、X-MENもミュータントという存在も、コミック上でのキャラクター程度の存在にまで消滅の危機にある未来。
荒廃した世界、老化によって病を患い心身共に不安定なプロフェッサーの世話をするローガン、そのローガンも生活は順風満帆とは言えないもので、運転手として働いている生活に。
この世界観を通して、X-MENへと、ヒーロー作品へと痛烈な皮肉をかましているのが本作のニクいところ。
X-MENとして、ウルヴァリンとして世界の危機を何度も救って来たローガンの末路が、体力も視力も低下するだけでなく精神的にも追い詰められており、命を賭して戦って来た代償が普通の人間のような生活すらままならない環境というのが…。
それでいて、ローガンは体に埋め込まれているアダマンチウムによって不老不死ともいえる再生能力と体の意地が持ち味でしたが、アダマンチウムから毒素が湧き出ただめ、毎日毒素による苦しみに蝕まれるだけでなく、再生能力や身体能力すらもかなり衰えてしまいます。
ミュータントも自分達の居場所もないような世界で、老体となった自分の身体に鞭を打ち己を奮い立たせ、病に苦しむプロフェッサーを介護する生活を送るローガンは、なんとも痛々しい…。
その行く先々でも、自分と関わる優しい人々が巻き込まれて死んでしまう惨状もいいアクセント。

多くの死闘を潜り抜けてきたヒーローが、死へと向かいつつあるからといって世界は彼に微笑みかけない…。
現実を通して描かれる、ヒーローへの皮肉をたっぷりと込めた世界観がとても良いですね。
どんな窮地にあっても死なない・死ねない事が大きな取り柄であったローガンが、今にも力尽きてしまいそうになっているのが日常となっている姿は、X-MENシリーズを鑑賞してきた人ならば否が応でも心に響いてくること間違いなしです。
もう生きていくのが辛い、という叫びが聞こえてきそうな現状を前にし、野垂れ死ぬではないかと思われるその姿。
そんな彼の前に現れた少女・ローラと奇妙な信頼で結ばれていく過程と、その果てに待ち受けるローガンの最期、面白かったです。

自分と同じ能力と獣のような爆発力を持つローラに、凶暴性を抑えるよう言いくるめようとするローガンはどこか微笑ましく、素敵なシーンでした。