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映画よ、さようならのhasseのレビュー・感想・評価

映画よ、さようなら(2010年製作の映画)
3.7
演出4
演技2
脚本5
撮影3
照明3
音楽5
音響3
インスピレーション4
好み4

○「時間があったら、映画に行かない?」(ホルヘ)

人生初のウルグアイ映画。ウルグアイの映画産業は極めて零細で、映画誕生以来、製作された長編劇映画は60本程度しかなく、2001年公開『25ワッツ』が殆ど初めて国際的に名の知れた作品である。
本作もいくつかの国際映画祭に出品、受賞しているようだが、変わり種の映画だ。

前半40分は、映画フィルムの保管、上映を行うシネマテークの経営難を、25年間勤めたホルヘの視点で淡々と描く。
本作がフィクションであることを冒頭に謳いつつも、ウルグアイの映画館のリアルな実態がよく分かる。オリヴェイラ監督特集をやったり、オフィスに黒澤明監督『乱』のポスターがあったり。客入りは決してよくなく、映写機や座席は老朽化が進む。日本もしかり、どの国のミニシアターも厳しい実情は同じなのだろう。
エントランスに貼られた2枚のポスター「オリヴェイラ監督特集」と「権利の主張を」という、映画館の明暗の両面が並列化される構図は鮮烈だ。

さて、家賃が払えず、後援財団からの出資も停止されたシネマテークは事実上倒産。ホルヘは失職し、荷物をまとめて首都モンテビデオの街をあてどなく放浪する。
…するのだが、後半20分がヘンテコなのだ。よくある展開だと、大好きだった仕事を失い、映画への情熱を打ち砕かれたホルヘの葛藤や絶望、心身の荒廃を描ききるか、そこから立ち直るかを描くだろう。本作はあっさりしたもので、小一時間程でショックから立ち直る。(だから上映時間が60数分と短い。)ホルヘは大学に侵入すると、代講師になりきり、嘘についての哲学的なスピーチを学生に聞かせる。そしてポケットのナッツをニヤニヤしながら池の鯉に与え、散髪に行く。ホルヘの奇行の描写が、前半の重苦しい雰囲気からの解放感と、場面に合ってるんだかよくわからない音楽も相まってとても面白い。前半が固定ショット多めにたいして、ショットがよく動くのもある。ホルヘの太った体型のせいもあるが、ジャック・タチみたいに見えてくる。
最後は映画館勤務時代の荷物を床屋に置き去りにして、恋するパオラを映画に誘う。なんと軽やかな結末。映画文化の担い手としての立場は失ったが、好きな女性と一緒に映画見にいけるって幸せだね。

ツァイ・ミンリャン監督『楽日』的な物語かと思っていたが、ちょっと趣向が違った。が、これはこれでとても良い。
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