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サバービコン 仮面を被った街のJIZEのレビュー・感想・評価

3.5
1950年代の古き良き米国を舞台に郊外住宅で起きた実際の人種差別暴動をモチーフにそこに生きる白人家族のトラブルを描き出した犯罪コメディ映画‼冒頭で町のプロモーション映像がTV番組の説明調で描かれ直ぐ様作品の奇妙な世界観へ没入した。原題の「Suburbicon」は要約で"郊外ユートピア"。理想的な町のメッキが剥がれ落ちる過程は独特で不気味。それでいて主演マッド・デイモン演じる主人公ガートナーのステレオタイプでいて常に問題を把握しようとしてその行動がはからずも裏目に出てしまう頓知は間が抜けてて笑える。主に火星から無事に生還しミクロ人間に縮小化した男が本作では白シャツ1枚の一家の主として家族を守るため血を血で洗うよう狂気化していく。ヴィンテージ感ある50年代の衣装,町の看板,アールデコの調度品や人種差別への言及,社会風刺など世界観の柔軟な縦軸がありつつ強盗事件(殺人ミステリ)により一家の歯車が狂っていく娯楽性がうまく調合されているのは脚本に携わる喜劇王コーエン兄弟の手腕といった所だろうか。全部が密接に絡み合う構造を設けてないため総合的なカタルシスがやや薄いが平和な町(理想郷)のメッキがいかに表層的で虚像なのか...イビツな映像の含みが面白い。

→総評(理想と虚栄にまみれた町サバービコン)。
本作はジョージ・クルーニー監督が白人コミュニティにおける黒人の問題を露に浮き立たせて両者の友好を高らかに謳いあげる作品であった。また世界観の元が50年代に郊外住宅を大量供給させたニューヨークの住宅街"レヴィット・タウン"であり内容に奥行きを感じさせる。作品の序盤と中盤で町の不穏が滲み出ていき終盤でそれが全方向に拡散するまさに王道的でザッ米国映画という感じだ。不満点を出せばもともとロッジ家自身に漂う不穏さが強盗事件に巻き込まれる以前から醸し出されているため事件前後の緩急が見方によってはぶっちゃけ薄い。あるいは元々が仮面夫婦で町を未曾有の恐怖へ陥れていく怪プロトコルのほうが盛り上がった感は否めないだろう。ジュリアン・ムーアの不適な笑みも単に普段から変わった人としか受け取れなかった。姉妹の一人二役を演じた設定も正直あまり不必要にも思え印象に残らない。キャスト覧に名を刻むジョシュ・ブローリンに至っては編集過程で全カットされたとかで非常に残念でならなかった。保険屋の役を演じたオスカー・アイザックのデキそうで無能な感じもシニカルで面白い。終盤で息子がベッド下に隠れる地形の使いかたや洗剤を食べ物にまぜる小道具のシュールさ,ガードナーの握力器具でカチカチ鳴らす間の雰囲気も見所。終盤で中央に設けられた柵を挟んで有色と白人の二人の子供たちがキャッチボールをする描写も米国映画ならではの輝かしい着地。このようにマイノリティの問題がやがて町全体を範囲に膨れ上がっていく米国50年代の縮図をコーエン兄弟の安定感ある力量により心踊る町サバービコンのクラシックで歪んだ世界観を組み立てる可笑しい奇作であった。
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