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ハクソー・リッジのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
3.9
きのう 6月23日は沖縄戦から72年の慰霊の日でした。
沖縄に行った際には平和祈念資料館やひめゆりの塔、いくつかのガマなどの戦跡を訪れた事もあり、本作が沖縄戦を描いたアメリカ映画という事で、アメリカの視点からどんな風に描かれているのだろうと興味があって見に行って来ました。

主人公デズモンドは敬虔なクリスチャンで、「汝、殺すなかれ」の教えを自分の信念とし、国のために貢献したい思いから志願して入隊したものの、どんなに上官や仲間の兵士たちに虐められ不当な扱いを受けても、銃を持たないという信念を貫き通したんですね。

このデズモンドをアンドリュー・ガーフィールドが演じている事もあり、「沈黙」でも信仰や信念を貫く事での葛藤を描いていたので、同じテーマを感じました。

「僕は人を殺したくないので銃は持ちません」と言ったところで、「ほんならなんで軍隊に入ったんや」となるわけだし、それが自分が自分であるための侵せない信条だと訴えたところで、個人の信条や人権を尊重する軍隊なんかないので、全く理解されないし酷い目に遭わされるんですね。

「沈黙」でも思いましたが、自分の内心というのは誰にも侵せない最も大切なものだと思いました。
ただ、戦時中の軍隊においてそれは当然許されないわけで、それを貫き通す芯の強さや信仰心の強さにはただ驚かされるとともに、それがハクソーリッジという凄惨な修羅場と化した激戦の地でも、丸腰で衛生兵として負傷者を助けることだけを貫き通す姿は、崇高でありながらもある種の狂気すら感じる程でした。

沖縄戦の激烈さはこれでもかという程に生々しく苛烈に描かれ、延々と続く前線の地獄のような戦闘を見てると、一体この人達は何をさせられているのだろうとひたすら怖くて悲しくなりました。
飛び交う銃弾の嵐に敵も味方もなく肉片となって散っていき、手榴弾や火炎放射の炎に焼かれる兵士たち。
「野火」でも戦闘の残虐さを見ましたが、本作でも強烈です。

実際、ハクソーリッジの戦闘があった浦添市では、半数近くに及ぶ住人が犠牲となったそうで、ここでは日本軍と米軍の戦闘だけが描かれていましたが、相当数の住民が戦闘に巻き込まれて殺されたかと思うと、その戦地はどれ程凄惨だったのかと想像を絶します。
(ちなみに3ヶ月足らずの沖縄戦全体では、沖縄県民4人に1人の12万人以上、日米双方を合わせると20万人以上が犠牲となったといわれています…)

戦争の残虐さを戦闘シーンで見せるだけでなく、第一次大戦で戦った父親が壮絶な戦争体験によるPTSDで人格を破壊されてしまったことからも、いつの時代も戦争は非人間的で人の命だけでなく生き残った人の心も殺してしまう、そんな恐ろしさもあらためて感じました。

その反面、最後の方はどうしても戦争をヒロイックに美化しているとも感じられるような描き方もあり、そこは徹底的に戦争の惨さを描いた「野火」と比較しても、少し違和感を持った部分でありました。

自分の中で一番大切な信仰や信条などの内心をかたく守り続けることや戦争の悲惨さを描いた本作を見ながら、己の不正を隠す目的もあって他国の脅威をことさら煽ってナショナリズムを高揚させようとしたり、人の内心をも監視し、人権や自由を侵害しようとする動きに警戒しつつ、戦争だけは絶対にダメだという思いをあたらにしました。

83
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