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ハクソー・リッジのTSのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.6
【戦争映画史に名を残す傑作】96点
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監督:メル・ギブソン
製作国:アメリカ/オーストラリア
ジャンル:戦争
収録時間:139分
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2017年劇場鑑賞47本目。
戦争映画史に名を残す大傑作だと感じました。特に我々日本人が見たら衝撃的であると思われます。戦争の相手なんて表情すらわからない。ただただ「敵」である以上殺戮していくしかない。しかし、その「敵」にももちろん家族はいるし理性もあります。日米の戦争を描いたものとしてはイーストウッド監督の『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』があり一定の評価を得ていますが、今作もそれらの作品に負けないくらい戦争の悲惨さ、恐ろしさを描いています。今作の主人公デズモンド・ドスは実在の人物であり、太平洋戦争の沖縄戦において「決して銃を持たない」ことを誓った衛生兵です。戦争において兵士の恋人とも称される銃を持たない彼がどうやって英雄になっていくのか。人として当たり前の行動をする彼がどうして英雄とされるのか。必見の作品といえます。

第一次世界大戦で心に傷を負ったトム・ドズは来る日も来る日も酒に溺れては妻に虐待をしていた。彼の子どものデズモンド・ドスは看護師のドロシーと恋に落ち順風満帆な生活を過ごす。しかし、第二次世界大戦が始まると彼は志願兵として軍隊に入るのだが。。

彼は運動神経抜群であるため、軍の訓練において成績はトップでした。しかし、少年時代の経験から、モーセの十戒の一つである「汝、殺すことなかれ」という教えを大切にしてきた彼は、なんと銃を持つことを否定します。彼は戦場で人を殺すためではなく、人を助けるために軍隊に志願したのです。軍隊としては眉をひそめてしまう案件でしょう。戦場で銃を持たない兵士など足手纏い以外の何者でもありません。当初は厄介な彼を除隊するために他の兵士は意地悪をしていきます。しかし彼は絶対に折れません。軍法会議に出されても折れないのですから大したものです。前半はそのような流れを描いており人によっては退屈されるかもしれません。軍の訓練や上司と部下のやりとりは『フルメタルジャケット』を彷彿させられますが、今作のそれは同作よりかはマシです。少々温いとさえ思われるかもしれません。

問題は後半でしょう。さっきまでのんびり見ていたものがいきなり凄まじい緊迫感を帯びたものに化けてしまいます。米軍からハクソーリッジと呼ばれた沖縄の前田高地には大日本帝国最強の兵士たちが控えており、これを陥落させるには相当な兵力がいります。この前田高地における戦争シーンは最早常軌を逸しています。『プライベートライアン』を凌駕するかもしれない生々しい戦争シーンは見る者を圧倒します。吹き飛ぶ部位、血しぶき、亡骸を貪るネズミたち、途中退出者が出るのも納得。戦争の経験をされた方がこれを見ると凄まじく心にくるものがあるでしょう。戦争はいけないものだ。と我々は当たり前のように言いますが、こういうのを見てから言わないと全く説得力がないように感じました。
最早恐怖さえ覚えた爆撃音、銃声。映画館でこれなので、実際の現場にいる人からするとその恐怖度は計り知れないでしょう。それでも向かって敵という名の敵を倒していかなければならない。こんな狂気じみた場所で、銃をもたないドスに一体何が出来るのか。そんな疑問を抱きながらも彼はひたすら動く。そして彼の勇敢な行動を見て涙を流してしまいました。

沖縄戦は第二次世界大戦の中でももっとも過酷で残忍な戦いだったと言われていますが、それは今作を見たら痛烈にわかるかと思います。こういう作品を涼しい顔で作ってしまうメル・ギブソンという監督にも参ってしまいます。戦争映画の中でも恐らく10年に一度くらいの衝撃的な映画です。かなりキツいシーンもあるので万人にはオススメ出来ませんが、特に日本人が見るべき作品だと思います。
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