Inagaquilala

ハクソー・リッジのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
3.9
戦争を描いた作品が苦手で、とくに戦闘シーンなどではすぐに欠伸が出てしまう自分としては、ある程度の覚悟を持って劇場へ赴いたのだが、意に反してこの作品の前半1時間は戦場の場面ではなく、主人公デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフイールド)の故郷ヴァージニア州の田舎町での出来事と彼が入営した陸軍の訓練の模様だ。故郷では家族とのやりとりや恋人ドロシー(テリーサ・パーマー)との交際、訓練では「良心的兵役拒否者」として銃を持たないという彼の固い信念が描かれる。

いわば、ハクソー・リッジで奇跡的な活躍を見せる主人公デズモンド・ドスのバックストーリーがたっぷりと描かれているのだが、これらのシーンが、やがて地獄絵図のような戦場での場面のリアリティを担保する。もちろん戦闘シーンに関しても、監督のメル・ギブソンは力を注いでいるのだが、この主人公のバックストーリーを丁寧に描くことで、のちに展開される戦場での英雄的行為に強い印象を付加するのだ。

安易にCGを使わず、とにかく実写にこだわったという戦闘シーンは、確かに圧倒的だ。とくに火炎放射器から放たれる紅蓮の炎は、この最悪の白兵戦を鮮明な戦慄とともに映像として目に焼き付ける。そのため戦闘シーンの途中から始まる主人公のたったひとりの闘いは、さらに困難なミッションとして強調されていく。戦場を這いずり回りながら、ひとり、もうひとりと負傷者を救出していく主人公の姿には、誰もが心を動かされるに違いない。間違いなくこのシーンに、この作品の価値は存在する。

最初のタイトルクレジットで「真実の物語」と宣言され、ラストでも実在の主人公や関係者の映像が流れ、「実話」ということが強調される。ヴィジュアル的にはそそり立つハクソー・リッジの光景がアピールされているが、実際の戦場は、この崖を登った上の高地にある。日本兵の描写にはやや違和感を覚えるものもあるが、戦闘が終わり、主人公が戦場から帰還するシーンは、なかなか素晴らしい演出が施されており、それなりにじわりとくるものを感じた。
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