たつなみ

ハクソー・リッジのたつなみのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
3.5
大体アメリカ映画で描かれる日本兵はロクでもないものばかりなので、正直あんまり観る気は無かったが、町山智浩さんの解説を聞いて観たくなり鑑賞。

第二次世界大戦における最激戦地のひとつと言われている沖縄戦が舞台。
しかも監督のメルギブは”カトリック原理主義者”ということで、反戦とか平和を訴えかける作品なのかなぁ…と思っていたが、意外にも反戦メッセージは全く感じられなかった。

反戦よりもむしろ、
戦争という『殺らなきゃ殺られる』状況の中でも神への信仰(己の信念)を貫き通す事が出来るのか?
という、メルギブの”自問自答”が主軸。
実際、劇中でも主人公デズモンドの信念を揺さぶる様なセリフやシチュエーションが幾つかあったりする。
そしてこの『問い』というテーマがこの作品の評価を大きく分ける所だと思う。

デズモンドをメルギブにとっての”理想の信仰者”として描いている為、戦地での彼の行動はいちいち”ありえない”と感じる表現が多い。
何でもかんでも勇敢に立ち向かい、なぜか1人で全部やってのけてしまう所はちょっと白ける。
ラストで搬送されているシーンなんかはまるで宗教画の様な神々しい描き方をしており、まさに『聖人』として扱っている。

ただ、物語後半の沖縄での戦闘シーンは単純に映画としてとても見応えがあり、非っ常〜に面白い。
辺り一面に転がる死体の山。
バラバラになった手足や内臓までもリアルに描かれ、どこからともなく飛んでくる銃弾の雨に次々と仲間が倒れていく。
『プライベート・ライアン』の凄まじい戦闘シーンを彷彿とさせ、臨場感がスゴい。

アメリカ兵に襲いかかる日本兵は勇猛に描かれ、ちょっと好印象。
ただ、アメリカ人にメッタ刺しにされたり、火炎放射器で丸焼きにされている描写は単純に日本人としてイラっと来たが。

この容赦ない凄惨な戦闘シーンは結果的に戦争の悲惨さ、恐ろしさを際立たせているとは言えるが、私にはこれは単なる舞台設定だけである様に感じられた。
あくまでもこの物語は、デズモンド・ドスという男を通した”信念”の物語なのであって、反戦的なメッセージは二の次なのだと思う。

実際の沖縄戦では、日本兵の恐れを知らない勇猛果敢な戦いぶりにPTSDになったアメリカ兵がかなりいたらしい。
つまり、敗色濃厚な日本側にも『国を守る』という強い信念を持って命を懸けた者たちが確実にいたという事。
デズモンドとは種類が違うが、日本兵も彼と同じ様に描いていると言えなくもない。

やはり日本人として、もっと沖縄戦の事を知らなければ。
とりあえず町山智浩さんのオススメにもあった、岡本喜八監督の『沖縄決戦』も観てみようと思う。

【2017.7.3 追記】
タマフルにてライムスター宇多丸氏のレビューを拝聴。
メルギブ監督の作風について触れており、大変参考になった。

宇多丸氏によると、
メルギブの作風として一貫しているのは、
『現実は理不尽で凄惨かもしれないが、信念を持ち続けることこそが辛い現実に立ち向かう手段なのだ』ということ。
つまりこの『人間ナメんな!』こそがメルギブ映画の真髄。

メルギブの作品は『アポカリプト』しか観ていなかったが、確かにその通りだと思う。
宗教的な面が取り沙汰される事が多いメルギブだが、本作でも確かに宗教を超えたそのメッセージは伝わってきた。

やはり監督としてのメルギブはとても熱い男なのだと理解した。