成川ジロー

ハクソー・リッジの成川ジローのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.2
前半が宗教の熱心な信者と社会の折り合いの話で後半が戦争映画だった。

前半も結構秀逸で、不気味な笑顔を絶やさない主人公は正直怖くもあるけど、根が善人で真っ当な倫理観の持ち主を軍隊がどう扱うのか。散々な責め苦を受けながらも決して信念折らずに立ち向かい認められていくのは応援してしまったし、その中でいわゆる軍隊モノのチーム描写もあったりコミカルな描写もあったりして、楽しかった。主人公を虐げてるこいつらも後々主人公に助けられたりして認めるんだろうなーなんて思いながら見れた笑
チームの面々楽しそうなやつらばかりで素晴らしいんですよ。この良い感じが後の地獄につながるんだけど。
あと父親役のヒューゴ・ウィービングが物凄い良かった。マトリックスよりもロードオブザリングよりもキャプテン・アメリカよりも、ぶっちぎりで今作が最高の演技してると思う。親友の墓のシーンや食事のシーン軍服を来て昔の上官に会いに行くシーン軍事裁判のシーン全部凄い良かった。舌っ足らずなあの演技に感動させられた。

後半は前半と打って変わって戦場の地獄の様な現実。戦場の凄惨さがこれでもかとリアルに描かれる。怖すぎ。沖縄戦は本当に壮絶な戦いだったって聞いてたけど、この戦闘シーンはプライベートライアンに匹敵する。でも宗教者の活躍の場と言うのは基本試練だから、こういう状況でこそ自分の生に意味を見出して周囲にも認められて大活躍できるんだから、ある意味天国なのかもしれないな。聖戦みたいなもんかも。ちょっと藤田和日郎の『ゴースト&レディ』のナイチンゲールを思い出した。ほんと地獄の様な死が当たり前な戦場だからこそ、当たり前の死(殺し)を真っ向から対立して命を救うことに専念する主人公の歪さが際立って感動してしまうんだろう。しかもこれが実話とは……。立派。



ひとつ疑問と言うか、最後まで引っかかりがあったのが、自分は銃を持たなくても戦争に参加するっていうのは人殺しに加担するってことになると思うんだけど、そういうのは信仰的に良いのかな?って思った。
どう見ても仲間が敵を殺してなかったら主人公も命を救うという作業が出来てないんですよね。仲間の命を救うために敵に飛びかかって、敵と組み合ってるところを仲間が援護して撃ち殺したりすることもあったし。自分が特定の宗教を熱心に信じていないからこそ言えるんだけど、それって良いの?って思う。「汝、殺すなかれ」自分が人を救うために敵を殺すことはNGって事で銃を拒否してるんだから、自分が人を救うために仲間が敵を殺すこともNGじゃないんかと。まあ宗教と社会の折り合いとしてほんと難しいところなんだけどね。まあそこら辺はOKってのが今作で、NOなんですよ畜生!って最後まで苦悩する映画が『沈黙』だったのかな。どっちもガーフィールドやん。社会と折り合えるって言うのは悲しいけど宗教が間違いを認めるってことになると思うんだよね。

あと、結果を出したから認めらた。それは社会として当然だし、自分としてはそれで良いんだけど、宗教として、それはパンを増やしたり奇跡を起こさなきゃ信じてもらえなかったキリストと同じな気がして、それで良いのかな?って思いました。いやまあ結果を出さずに宗教が素晴らしいってことを示せる物語なんて無いけど。宗教的英雄ではなくて社会的英雄を描いてるんだよねこれ。主人公が素晴らしい人物であることに間違いはない。
もっと宗教について学ばなきゃ駄目だなって思った。
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