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ハクソー・リッジのmittskoのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
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とても面白かった。人の信念が周りの人たちを変えていく姿に感動した。

感染力… 本当に価値のある信念なら、人はどんどん感染され感化されたらよい。だけど、これがもし悪辣な信念だったら… と考えると恐くなる。もちろん本作は、主人公の信念を、迷いなく「善」として描ききる。その力づよいプレゼンテーションは、きっと多くの観客の心に届くだろう。そのカタルシスは尊い… しかし、「本当にそうだろうか?」という問いを忘れるべきではない。

本作は、誰あろう、メル・ギブソンの監督作品である。したがって、戦史物、戦争批判物として、かなり不十分なところがあるのは、最初から覚悟しておかねばならない。というのも、思想上の強烈な偏り(メルの雄たけびのような信念/信条/信仰)を、それはそれは見事な娯楽映画の手法で描ききること、彼の監督作品は常に、このリスクを犯してきたし、本作もその例にもれないからだ。

メル自身、これまで繰り返しなされてきたこの種の批判に十分自覚的なはずだ。しかし、それを押し切ってでも、彼には本作で描きたかったものがある。すなわち、キリスト教の神への信仰が芽生え、育っていく過程と、信仰者に必ず突きつけられる苦難と恍惚、そして、信仰の感化力/感染力による奇跡… そう、これは、カトリック原理主義者であるメル・ギブソンが命がけでつむいだ、キリスト教映画なのだ(映画マニアなら、主人公の父親の姿に、メル自身を今も焼きつづける罪と罰を見出し、胸が絞めつけられるだろう)。

21世紀初頭の日本で、私たちは、この映画とどう出会うのだろうか。事は意外と単純ではない、とボクは思う。
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