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ハクソー・リッジのKEYのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.1
メル・ギブソン監督作品は、史実を誇張しすぎた演出が気になり苦手でした。
歴史には元々詳しく無いのですが、映画で気になって調べたら全然話が違うってことが『パッション』『ブレイブハート』であったので…

今作の「ハクソー・リッジ」と言うのは沖縄の浦添市にある険しい崖のことで、その先に広がる前田高地が今作の舞台です。(詳しいことは浦添市の公式ホームページに記載されているので是非ご覧ください)
前半では人間ドラマを描き、後半で実際に戦地へ向かうと言う構成になっているのですが、この話を聞いて(あるいは作品を観て)『フルメタル・ジャケット』を思い出した方は多いのでは無いでしょうか?
しかし切り口は新しく、むしろ対照的で同作との差別化を図っている様に感じる。

例えば『フルメタルーー』では、軍曹の罵倒やいじめで精神的に参ってしまい自殺する。この時の銃へ異常に執着した演技は、同作で最も印象的なシーンだった。
一方、今作『ハクソー・リッジ』の主人公デズモンド・T・ドスは、自らの宗教的倫理観から銃を一切触らない。勿論今作でも、上官からの圧力やいじめは絶えず描かれている。しかしデズモンドは信念を貫き通し、やがて裁判にまで発展してしまう。

メル・ギブソン監督は作品で何度も宗教的なヒロイズムを描いて来たが、今作ではその宗教的な部分が薄い。
多くの人が共感したのは「信念を貫く」と言う万人に共通するテーマ性である。
今作で信念を持っていたのは、デズモンドだけでは無い。自らの意思で米軍に入った他の兵士達にも同等の信念はあっただろう。しかし彼らのその意思は、当たり前のものとして扱われ、称賛されることも、こうして物語として描かれることもない。

終盤、日本軍の兵士が自決するシーンがあり、裁判でデズモンドが話した「友人が軍の審査で不合格になり自殺した」と言う話と重なった。
彼らの信念によって向けられた銃の先に、同等の信念があったことを理解する者が居なかった時代である。
それを踏まえた上で、デズモンドの行動を称賛したい。
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