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ハクソー・リッジのはんぺんのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.8
史実映画を撮らせたら右に出る者はいないメル・ギブソン監督が、今回は太平洋戦争での沖縄を舞台に一人の青年兵士の人生を描き出す。

公開当時から話題が話題を呼んで
「戦争映画最高傑作!」
とか
「プライベート・ライアンを超えた」
とか
あらゆる方面から大絶賛されてた本作。
正直観る前までは、そこまでじゃないだろ…とは思ってたんだけど自宅の32型の小さい画面で観たにも関わらず、戦闘シーンの圧倒的なスケールには引き込まれざるを得ず、観たあとにため息すらこぼれる出来だった。
メルさん舐めててごめんなさい。

同監督の「パッション」も「アポカリプト」も伝記や文献といった資料から作り出した作品なので、ある程度の脚色や監督独自の解釈による描写が多かったりします。
その点、本作は比較的新しい時代の出来事をテーマにしてるので事実に限りなく近い。
それでいて目を覆いたくなる凄惨なゴア描写の数々には戦慄を覚える他ない。
ゴア描写の評判が先行しつつある「アポカリプト」すら余裕で超えてくる。

タイトルは太平洋戦争における沖縄戦最大の激戦地=前田高地の異名から。
切り立った崖が Hacksaw(のこぎり) に見えたことから"Hacksaw Ridge"と名付けられたそうな。
その高低差なんと150メートル。
米軍の先発隊が6回登頂し6回撃退されたとか。
高地を死守する日本軍の不屈の精神を印象づけるシーンもあった。
アメリカからすると何者にも絶対に屈しない〝大和魂〟こそ脅威だったんでしょうね。

メル監督は世界観の作り込みを細かすぎるぐらいこだわるのが特徴ですが、本作においてもその作風は顕著に表れていて、他のハリウッド作品でありがちな〝なんちゃって日本〟はそこには存在せず、後ろで聞こえてくる日本語もネイティブな発音、いわゆる本物。
これには衝撃を受けた。
字幕すら拾わない、よく耳を澄まさないと聞こえないセリフですら本物なんですよ。
本国では誰も気づかないであろう部分を丹念に作り込むことで作品に説得力を持たせる。
全編マヤ語で描かれた「アポカリプト」もマヤ語を話せる俳優を起用したために俳優のネームバリューは二の次三の次という、作品の魅力を作品以外の部分に頼らない姿勢が一貫されていて素晴らしいですね!

『今でこそ世界最強のアメリカ兵さん達は昔こんな目に遭いましたよー。ホントに大変でしたねー。でも終わりよければすべてよし!USA!USA!』
と、ありがちな偏った自国目線で語られないからこそのリアリティ。
あくまでも戦争という究極的な暴力の連鎖の正当性を問い、その狭間で葛藤する〝いち米兵〟の人生を描き出すことに終始してる。
単なる戦争モノで終わらせない、史実映画としての役割をキッチリ担ってることがわかります。

しかし実話ベースとなると地味になりがちなのが映像力で、その辺は映画だからこそ仰々しくドラマチックに描いたりするもの。
クリストファー・ノーラン監督作「ダンケルク」も戦闘シーンに重きを置いていないせいもあるけど、あまり派手な印象は受けず、戦争モノと聞いて観た人の中にはガッカリしたという声も多い。
(「ダンケルク」はIMAX専用映画と言われるほど大画面にこだわった作風なのでそもそも比較はできない。)

本作はその点、これでもか!と言わんばかりのスケール感で映し出されるので、激戦地での戦闘シーンは戦争映画史に残るレベルでしょう。
想像を絶するほどの過激なシーンの数々。ここまでとは正直思ってなかった。
もうね、阿鼻叫喚の地獄絵図ってこういうことなんじゃないかな。
敵味方入り乱れて色んなところから飛んでくる銃弾・砲弾の嵐。
もちろん実際はこれ以上の凄惨さだったんだろうけど、映画で表現しうる最大限の映像力をもってして訴えかけてくる。
こんな名作にリアルタイムで出会えたことに感謝したいぐらい衝撃的でした。