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奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガールのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.7
 奥田民生を師と仰ぎ、思春期からずっと生き方の見本として来た男コーロキ(妻夫木聡)は33歳独身。別雑誌の編集部から最近、女性向けライフスタイル誌『マレ』編集部に移動になった編集担当である。33歳といえば、勤め始めて10年強、少しは仕事と恋の両立が出来るようになる時期だが、コーロキは違う。開巻早々、ディアンジェロやジ・インターネットの話で盛り上がる先輩方を尻目に、臆することなく「奥田民生が好きです」と堂々と言える天真爛漫さこそコーロキの魅力に違いない。ライフスタイル誌に配置転換し、一番下っ端ながら先輩に可愛がられる愛嬌と純粋さ。『愛のために』のドーナツ盤をかけてくれる木下編集長(松尾スズキ)という素晴らしいメンターに出会い、クールな先輩ヨシズミ(新井浩文)にも認められ、彼らのような質の高い編集者になりたいと日夜思うコーロキの前にある日、運命の女が現れる。フレームから思わず星が溢れるような80年代的なベタな演出は大根仁の面目躍如だろう。コーロキはレディース・ファッション・ブランド『GOFFIN&KINGS』のプレスとして働く天海あかり(水原希子)に恋をする。ミニスカートからすらっと伸びた長い脚、華奢な腰回り、真っ赤なリップを塗った女のわざとらしい上目遣いにコーロキは一瞬で恋に落ちる。この狂わせガールという名のファム・ファタールを水原希子が嬉々として演じている。今作の魅力は彼女のセクシュアリティ抜きには語れない。

 思えば大根仁の映画において、「編集部」という磁場は原作モチーフに留まらない大きな魅力となった。監督デビューとなった『モテキ』では実家暮らしだった藤本幸世(森山未來)が31歳になって初めてまともな就職をしたのが、ニュースサイト・ナタリー編集部だった。『バクマン。』では真城最高(佐藤健)と高木秋人(神木隆之介)の新人漫画家コンビが集英社の『ジャンプ』編集部に殴り込みをかける。『SCOOP!』ではかつて売れっ子のスクープ・カメラマンだったが、今は落ちぶれてしまった都城静(福山雅治)が再びスクープ写真を撮りに出向く。2013年の『恋の渦』以外の大根の全ての作品の中でこの「編集部」こそが主人公の成長の現場となった。現代的な作品ではしばしば女性の方が自由奔放で仕事と人生の両立を楽しみ、男性がどこか厨二病的なマインドで、愛する女に寄り添おうとするが今作も例外ではない。詳しい説明は省くが、クライマックスではコーロキだけではない男たちの病巣が迸るのだが、あかりは決して悪びれた様子も見せることなく、女としての自由な生き方を謳歌しているに過ぎない。彼女が中目黒Junkadelic(テックス・メックス旨し!!)でコーロキの先輩に見せた姿と男たちに見せた姿の差異は彼女のファッションにも明らかである。Supremeのキャップにヴィンテージのデニムを併せたあかりの甘辛コーデに騙される男たちが全て悪い!!LINEの返信を心ここに在らずな面持ちで待ち、返信内容に一喜一憂し、仕事の段取りすらも飛び越えてしまう。そんな男どもの滑稽さが、奥田民生のメロディと共振する。間違っても傑作とは呼べない作品だが、どこか憎めない愛らしい小品である。とりあえず安藤サクラと江口のり子の奇跡のニアミスと、リリー・フランキーの志村けんばりの怪演っぷりに笑う。肩が凝らずに見れるエンタメ作品である。
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