茶一郎

ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープルの茶一郎のレビュー・感想・評価

4.2
 ニュージーランドの広大な自然で繰り広げられる、ヒップホップ不良少年と頑固おじさんのバディ・サバイバル・アドベンチャー!何せ、お供の犬の名前は「2パック」ですからね。

 現映画界にとって台風の目であるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の驚きのニュースは、「アベンジャーズ」のメンバーであるマイティー・ソーの単独作品の3作目の監督に抜擢されたのが、知る人ぞ知るニュージーランド出身の監督兼俳優のタイカ・ワイティティ氏だというものです。そのタイカ・ワイティティ監督は「MCU作品を一作品も見ていない」と言い切り、かのジョン・カーペンター監督のブッ飛びおバカカルト映画『ゴースト・ハンターズ』を参考にマイティー・ソーの単独3作目である『マイティー・ソー バトルロイヤル』を作ったという強者。
 尤も、マイティー・ソーとハルクとの宇宙の果てでのバディムービーとなる『マイティー・ソー バトルロイヤル』の監督に、バディムービーを作り続けるタイカ・ワイティティ監督が選ばれたのは必然だったとも言えます。監督の出世作『シェアハウス・ウィズ・バンバイア』ではバンバイアとの100年以上続くシェアハウス生活による男の友情が描かれ、今作『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』では不良少年と頑固おじさんとの冒険を通じて築かれる男同士の友情が、そしてついに『マイティー・ソー バトルロイヤル』で宇宙の果てに飛ばされたソーとハルク、「アベンジャーズ」のメンバー同士の友情が描かれるという訳です。

 さて、今作『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』は児童福祉施設で不良行為をし続けてきたヒッポホップ少年リッキーが、山奥の田舎村で新生活を始める所から物語が始まります。リッキーの里親として名乗りを上げたのは、笑顔が素敵なベラおばさんと、一方で里親になるのにどうも乗り気ではない偏屈で頑固なヘクターおじさんでした。すぐに新しい生活に馴染むリッキーですが、ベラおばさんが急死。リッキーは児童福祉施設にまた引き取られることになりますが、リッキーは山に逃亡!そのリッキーを追うヘクターおじさん、そしてリッキーとヘクターおじさんの山でのアドベンチャーが始まりました。
 と、とても愉快な全12章からなる絵本のようなお話。全編のオフビートなギャグといい、美しい自然と細かい画面配置は安易に言ってしまうと「ネイチャー版ウェス・アンダーソン」という感じです。
 ニュージーランドの自然は、かの『ロード・オブ・ザ・リング』のロケ地になったことで有名ですが、そんな広大な自然の中、不良少年が『スカーフェイス』だの固有名詞がバンバン飛び交う。確信犯的に『ロード・オブ・ザ・リング』そのままの展開を入れてきたりと、話作りそのものもヒップホップ感覚、とにかくポップなんですよね。

 リッキー少年とヘクターおじさん、世代的にも、性格的にも中々、噛み合うことのない会話と気持ち。そんな彼らのコミュニケーション・ツールの鍵は何と「ハイク」だというのも面白い。
 配役に関して言及しておくと、頑固偏屈なヘクターおじさんを演じたのは、『ジュラシック・パーク』で中々、父親になれない恐竜博士グラントを演じたサム・ニール。つまるところ、今作『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』のヘクターおじさんも、『ジュラシック・パーク』のグラント博士も、ある旅を通じてようやく父親になることができたということです。
茶一郎

茶一郎