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鋼の錬金術師のJIZEのレビュー・感想・評価

鋼の錬金術師(2017年製作の映画)
3.8
何かを得るには同等の代価が必要とされ物質を対価に新たなものへ作り替える"錬金術"が存在する世界を舞台に母親を失った幼き兄弟が代償を支払う人体錬成へ手を染め禁忌を犯した事から失った弟の身体を取り戻すため壮大な冒険劇を紡いだ人気コミック原作の実写化映画‼この作品を扱うに辺り特別な想いがあった。原作兼アニメ版(二度の映画化含)はぜんぶ監視済である。まずディテールを呈せば完全オリジナルのアニメ完結編『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者(2005年)』という紛れもなき大傑作の長編アニメ映画がありましたがつまり1923年のミュンヘンと錬金術が交錯する現代を結び付け同時並走で"リンク"させながらもパラレル世界観が描かれた。この作品は約12年前ながらも鮮烈に記憶へ焼き付いている。このように絶大な支持を獲得した原盤が実写化へ踏み切った事でさてどうなるか…結論を言うと原作を踏襲する箇所で必死さが垣間見えてしまいそれでも美点がある一方で同時にダイジェスト感(脚本)が酷い作品,だったように感じた。また終盤約何十分かにも及ぶオリジナル展開を汲み取っても急ぎばやに犠牲者を出しては処理される"終結"を描く必要があったのかと思えた。監視前は最初の導入部を除きほぼ完全オリジナルの脚本かと予想していたがここまで原作忠実で寄せてきたか…という物足りない後味がある。言っちゃえば実写版のハガレンでしか醸し出せない特別な強い独特性がこの脚本にはない。ただ"人間の業の深さ"や"真理=等価交換"など核的な描写は残酷なほど突き詰めダークに描かれていた。

→作品概要。
監督は『ピンポン(2002年)』の曽利文彦。累計発行部数7000万部を記録した有名コミックを映画化。主演は『暗殺教室(2015年)』の山田涼介。先に公開を控える『今夜,ロマンス劇場で(2018年)』の本田翼等。また本作は第30回東京国際映画祭でオープニング作品としてプレミア上映され注目を集めました。

→原作全27巻のうち抽出された3分の1映像仕様。
賢者の石の争奪戦自体はプロットの骨格上で重要に描かれてなかった。要するにエモーショナルな人間ドラマを重点的に製作されている。まず開幕,由緒あるイタリアの大草原が映し出され幼少期のエルリック兄弟が禁忌を犯す場面から現代に舞い戻り舞台リオールで神父コーネロを鋼の機械鎧エドが追撃し錬金バトルが魅せ場の連続でガシガシ展開される。最初の掴みは石獣をエドが錬成した槍で突き刺し粉砕する原作忠実の名場面や内からグイグイ湧いてくる疾走感も高まってか画面へ前のめりに引き寄せられた。またプロットは弟の身体を取り戻すため賢者の石を探し求める兄弟のロードムービーを埋め込みながら大まかに国家錬金術師タッカー&ヒューズ中佐の二つがメインの軌道として時間を割き取られていた。所謂,序盤~終盤最終辺りまではガッツリ原作ベースで忠実に脚本が踏襲されている。上述したよう脚本が単調で無個性なのだが本音を言えば錬金バトルがもっと観たかったよ。エドとアル,ウィンリーが原作に沿うイベント毎に各地へ出向いては重苦しい会話劇を重ね単に翻弄されるだけで場面の意図が終始してる。以上でも以下でも"鋼の錬金術師"という確定された既存バリューに留まってしまう箱庭的な悪い意味で優等生が製作したような作品である。

→総評(賢者の石の争奪戦は一時終戦,そして……)。
今回の実写化に対して世間で色々批判されてるけどエドの胸熱な台詞とかもあってオレは結構好きな作品だった。また全編ほぼフルCGで特にアクションはグリーンバックで撮影したのも善い部分,悪い部分の両方の意味で奮闘した作品には贔屓目なしで思う。それでも人造人間ホムンクルス3人組の凶悪な存在感は作品の要を相当担っているのだが例えば松雪泰子演じる"色欲"ラストが標的を数秒で瞬殺する独特なあの間の取り方や"暴食"グラトニーの無表情で胃袋を絶やさない怪物感,"嫉妬"エンヴィーの他者に容姿を変え場を翻弄させる妖艶感などヴィランの登場場面は全部映えていた。ゆいいつグラトニーのムチデブ体型だが超高速で移動できるなど体型と身体能力に差異があれば良かった。終盤で取るグラトニーのある行動も確実にもうあと何回か暴走する展開を望んでいた観客は自分だけではない筈だ。このように作品内で褒めあげれる美点がある一方で原作のレールを意識しすぎたためオリジナルで何か感動を得る段階にまで脚本が到達できてない印象を覚える。最後の終盤でも国家錬金術師,軍,ホムンクルスを結んだほぼ三つ巴の構図が取られるのだがそこで賢者の石が無限に暴走し出す辺りからこれじゃない…感が非常に募ってしまった。描いて欲しい箇所で王道が描かれずあまり重要ではない箇所で行動パターンが忠実に描かれてしまっている。中盤の旧缶詰工場で兄弟の殴り合いが始まりそれを見損ねたウィンリーが「アンタたちそれでも兄弟なの!…」と嘆く場面で物語が前へ全然進んでおらず思考が停止しかけた。曽利監督のインタビュー曰く今回の興行収入次第では続編を視野に熱望してるみたいでもし仮に"次回"が製作されるのであれば完全オリジナル脚本でお願いしたい。山田涼介の芝居も声真似やエドの仕草や表情などだいぶ奮闘し頑張って寄せた方だとは思う。残り約2/3の原作(続編)も条件が整えば期待したい。フィルマークスの平均値ほど酷い作品では全然なかった!ぜひハガレンの近代的で異情緒ある世界観にどっぷりハマるうえではこの冬お勧めします‼!
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