katsu

ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリーのkatsuのレビュー・感想・評価

3.4
Fast ship?
You've never heard of the Millennium Falcon?
It's the ship that made the Kessel Run in less than 12 parsecs.


20年以上前の1995年秋、1999年より再始動する映画シリーズを前に、日本国内で某社が実施したアンケートで、主役のルークスカイウォーカーやダースベイダーをおさえてハンソロが人気ナンバーワンであったことに驚いた。

勿論、演じたのがハリソンフォードだったことも大きい。
改めて説明するまでもないだろうが、彼はハリソン役でブレイクし、「レイダース/失われたアーク」や「ブレードランナー」などで主役に起用された。
特にインディジョーンズ役は、製作総指揮のジョージルーカスが「スターウォーズ」3部作と時期的にかぶるから躊躇していたのを監督のスティーヴンスピルバーグが押し切って実現した。

しかし、彼が演じる前からハンソロが人気者となるべきDNAは設定やデザイン、脚本などに組み込まれていた。

ジョージルーカス監督は、1973年初頭に「アメリカングラフィティ」を完成させたあとに、名もないSF映画の企画に着手した。
2008年刊行の『メイキングオブスターウォーズ』によると、ジョージルーカス監督は1974年5月にラフ稿を書き上げ、その2ヶ月後の1974年7月に第1稿を完成させた。
物語とセリフはラフ稿と同じで、登場人物と場所の名前の多くが変わっているにすぎず、この段階でハンソロやウーキーの名は登場しているという。
そのウーキーのチューバッカのモデルはルーカスが長年飼っていた”インディアナ”という名前のエスキモー犬で、よく車の助手席に乗せていた。
毛むくじゃらの相棒で、いつもハンソロの傍らにいる、大型で知性があり、友好的だが獰猛にもなる、犬に似た大柄な生き物と考えていた。
ルーカスの相棒がハンソロの相棒のルーツなのだ。

ルーカスはスクリプトを書き直す傍ら、映画会社に企画を売り込むため、イラストレーターのラルフマクォーリーを雇って、自分のアイデアを絵にしていった。
コンセプトアートと呼ばれる鉛筆画やアクリルペインティングの初期のものには、毛むくじゃらのウーキーと一緒に、ライトセーバーまで持っている”宇宙海賊ハンソロ”が描かれている。
当時のルーカスそっくりの顎髭を蓄えた顔なのは、シャイなルーカスの注文というよりは、絵描きのシャレや遊び心の賜物であろう。
ポスターっぽいペイント画で、ハンとヨーダのような耳を持ったウーキーの手前に描かれている主人公はルークスターキラーという女性だった。
基本的には主人公が成長していく物語で、ハンやチューバッカがそれを助けるという構造は、この時点で決まっていた。

そして”宇宙海賊ハンソロ”は西部劇のガンマンのようなSF映画っぽくないデザインに落ち着いていくが、彼とチューバッカの持ち船は”ミレニアムファルコン”という名前が決まる前は”海賊船”とスクリプトに描かれていた。
この”海賊船”こそが映画の主役メカだったので、出番が多いはずだから様々なショットに耐えられるように撮影用の模型は最も大きく作られ、細部まで入念に作られた。
ところが、同時期にスタートした英国のTVシリーズ「スペース1999」の主要宇宙船(イーグル号)に似ていると指摘したスタッフの意見に耳を傾けたルーカスは海賊船の大型セットを建て込む直前にデザイン変更を指示し、”空飛ぶハンバーガー”をモチーフにした、今日我々が知るミレニアムファルコンがデザインされた。
それまで作られていた”海賊船”の撮影用ミニチュアは、宇宙船の先端を作り変えるなどして、映画冒頭でレイア姫が乗る外交船”ブロッケードランナー”に転用され、ミレニアムファルコンはそれよりもっと大きな、直径2メートル近くの特殊撮影用の模型が作られた。
主役メカは主役のルークのものではないのだ。
つまり、影の主役はハンソロだったわけだ。

宇宙海賊のハンソロは銀河の無法者でタフガイだ。
”宇宙海賊”という呼称は、70年代当時の流行りのSF用語で、日本では「宇宙海賊キャプテンハーロック」というアニメ化された松本零士の漫画も同時期に発表された。
その後、「スターウォーズ」なくしては生まれなかったアニメ「スペースコブラ」の、寺沢武一による原作漫画「コブラ」の主役も、指名手配から逃れるために顔を整形した宇宙海賊である。

ただし、大がかりな海賊行為を働ける設定でもないので”密輸業者””宇宙の運び屋”という設定になっていった。

そして「エピソード4」の最初の登場シーン。
ルークたちが砂漠の惑星タトゥイーンを脱出してレイア姫の元に駆け付けるため、宇宙船を探していた折、チューバッカやハンと出会うが、ここでの「ケッセルランを12パーセクで飛んだ船だ。帝国の宇宙船を出し抜いたこともある」というハンの持ち船についてのセールストークのセリフが、とてもSFっぽいということで当時からリスペクトされていた。
一方で、1978年の日本劇場公開時は、若いSFファンの間では映画のアラ探しが流行っていた。
SF映画の金字塔である「2001年宇宙の旅」の完璧な映像のアラ探しと同様に、そんなウンチクを語り合うのがビデオがない時代のファンの楽しみでもあった。
毎秒〇〇という速度みたいなパーセカンドとパーセクとを混同していて、ルーカスはSFをわかっていないと揶揄する低次元な誤解もある中、パーセクは天文学的な単位だから「ケッセルランとは何ぞや?」とファンの間では議論された。
日本語字幕などでは”ケッセル航路”と訳されているが、競技名の可能性もあった。
1955年のジェームズディーン主演映画「理由なき反抗」のクライマックスの度胸試しの競技”チキンラン”、そしてキャノンボールランのように決められた区間を如何に最短で走行するかを競うのは、なんとなくケッセルランに共通していそうだった。
この最も気になるハンのセリフは、コアなファンにとっても重要な文言で、2015年公開の「フォースの覚醒」で、年老いたハンと主人公レイとの会話でもケッセルランや12パーセクという言葉がいきなり登場する。

そして、キザでアウトローのくせに、クライマックスで突如ファルコンを駆って現れて主人公ルークが乗るXウイングを助け、デススター破壊に貢献する。
よくよく考えれば、この行動だけで、ルークと一緒にメダルを授与されるのだから、この時からレイアに贔屓されていたという意味だったのだろうか。

そして「エピソード5」はヒロインのレイア姫をめぐって主人公ルークとハンソロとの恋の鞘当てが描かれつつ、じつはハンとレイアはお互い好きなのにそれを口に出せないでツンツンしているという物語でもある。
その後半、雲の惑星ベスピンの空中都市クラウドシティでハンソロがカーボン冷凍される時、相棒のチューバッカはそれを阻止しようと暴れるが、死ぬかもしれない間際にハンはチューバッカに対して「自分を助けるより、力を温存して、姫を守れ」と念を押す。
そしてレイア姫は「愛してます」と告白し、ハンが「わかってる」と返す、映画史上最高の告白シーンが誕生したのだった。

今日では誰もがシリーズ最高傑作に「帝国の逆襲」を挙げる要因には、SF的展開とは無縁の、このシチュエーションもあると私は考えている。
この「愛してます」「わかってる」というやり取りは、続編の「エピソード6」後半でもセルフパロディとして用いられている。
エンドアのバンカーで今度はハンが「愛してる」と言いレイアが「わかってる」と返すシーンがある。
ともかく、ルーク以上に見せ場が多く、カッコイイように描かれているのだから、日本で人気ナンバーワンなのも無理からぬハナシだと思う。

そんなハンソロとチューバッカの最初の出会いも、今作に描かれている。
そして、ミレニアムファルコンはサバックというカードゲームの賭けでランドカルリジアンに勝って彼から手に入れたという設定も「帝国の逆襲」が初出だが、これらのファンが長年気にしていたこと、そして「最後のジェダイ」のクライマックスで登場した”ハンソロのラッキーダイス”についても本編を通して触れられる。

本作は「最後のジェダイ」同様、賛否両論となり、米国やその他主要市場の興行も振るわず、シリーズ史上最低の売り上げとなったのも先月の話。
興収も、評価も、パッとせずやはり鑑賞を見送ろうとした自分がいたことに驚いた。
いやはや今作は誰が何を言おうと、あのスターウォーズです!!!
この1作品では完結できてはいないものとなっているが、伏線も散りばめられ、それぞれのキャラクターに活躍するシーンが設けられた、まさに巨匠ロンハワードの手腕である。

《たとえ仲間同士だとしても誰一人信じてはいけない、生き延びるためなら……》

初日に観れなかった日本の皆さん、是非お近くのファルコン号へご搭乗を!!!
katsu

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