ラウぺ

ベロニカとの記憶のラウぺのレビュー・感想・評価

ベロニカとの記憶(2017年製作の映画)
3.7
登場人物は少ないものの、ストーリーから振り落とされないように注意をしないといけない作品。
注意深く観ていればそんな心配は不要なのですが、登場人物の関係性が明らかになるにつれて予想もしなかったような展開が起きるので、途中で人名などを聞き間違ったのではないかと不安になる場面があるのです。

物語自体は過去の記憶を辿る主人公の回想場面と現在の出来事が交互に進行するのですが、その語り口はいかにも英国的な丁寧さで、決して急がず、少しずつ過去の真相に迫っていきます。
現在のベロニカをシャーロット・ランプリングが演じていますが、その登場は予想外に遅く、その代わりに少ないセリフでこれまでの年月の重みを感じさせる極めて重要な役回りで、大変印象に残りました。
観終わって原作があるのではと思って調べましたが、ジュリアン・バーンズのブッカー賞2011年受賞の小説「終わりの感覚」とのこと。

授業風景やパーティなど学生時代を回想する主人公の甘美な思い出のイメージは特筆に値するものがあり、学生時代の「あるある」なイメージは世代や文化の違いを超えて共通するものがあるようです。
妖艶で謎に満ち魅力的なベロニカのイメージはこの甘美な思い出の中に神格化といってよいものとなっており、元妻には過去の思い出に過ぎないと断言するものの、主人公のベロニカに対するこだわり方はストーカーといってもよい程に尋常ならざるものがあります。
なぜそこまで現在の元恋人にこだわるのかは次第に明らかになってくるのですが、そのことは主人公の過去に対するイメージの意図的にか無意識的にか、都合のよい忘却と改変が行われていたことが明らかになっていく過程でもありました。
このプロセスこそがこの作品の核心であり、人生の切なさと残酷な一面を知ることになるのですが、これはネタバレの先にあり、後は映画をご覧いただきたいと思います。

仕掛けの重層さといい、謎解きの妙といい、大変魅力的な作品でしたが、この作品の魅力はおそらく原作に由来するところが相当大きいのではないかと感じました。
とはいえ、丁寧な映像の積み重ね、学生時代と現代のコントラスト、なにより主演の2人の演技がこの作品に相応しい雰囲気づくりに貢献していると思いました。

観終わってから原作を読みましたが、映画は原作にはない後日談ともいえるエピソードが追加されており、一条の光とも思えるエンディングに監督の優しさ?を垣間見ることができます。
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