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手紙は憶えているのmoyuのネタバレレビュー・内容・結末

手紙は憶えている(2015年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

勘のいい人なら「ラスト5分の衝撃」でオチが読めてしまう。
同じようなキャッチコピーでも、「ミスト」はオチが読めずラストを迎えた瞬間心を鷲掴みにされた。
キャッチコピーでラストがわかってしまうのが惜しい。

年の瀬が近づいているが、アウシュビッツ関連の映画を観る機会の多い一年だった。
「フランス組曲」「サウルの息子」「帰ってきたヒトラー」
平和に対する慢心に対し警鐘を鳴らしているかのようだ。

認知症を患う老人が同じ老人ホームで暮らす友人がしたためた手紙を元に、かつての仇敵に復讐を遂げるため旅に出る物語。
原題の「REMEMBER」もいいが、邦題の「手紙は憶えている」もいい。そそられる。
作中に出てくる手紙は、超高齢認知症老人の旅の指標であり、人生の終息に向かっている人間の生涯をかけた皮肉な復讐を完成させるキーアイテムでもある。

キーパーソンはルディ・コランダー。人生をかけて復讐すべき憎き仇敵は、ユダヤ人の身分を乗っ取ってアメリカに亡命。90歳かつ認知症の老人の復讐の旅は、足取りもおぼつかなく目覚める度に妻を亡くしていることを忘れているほどに危うい。旅をしていることはおろか手紙を持っていることすら忘れてしまう。それでも手紙に指示されるまま旅を続け友人が絞った四人のルディ・コランダーを訪ねて行く。

1人目は同時期北アフリカに従軍していた別人で、2人目は同胞でありながら同性愛者のためアウシュビッツに入れられていたドイツ人。3人目は既に死亡しており、当時10歳の少年だった。
そして4人目を訪ねた時、探し求めていた仇敵にようやく会えるのだ。

作中恐怖に駆られた老人は殺人を犯す。それまで老人の顕著な物忘れがもたらす冗長した空気が異様な雰囲気に変わる。鳴り響くサイレンの音。訪問を歓迎し泊まっていけばいいとさえ言っていた男が老人がユダヤ人だとわかると豹変する。一皮剥けば野獣と変わらない人間の脆さを見た気がした。

人生が終わるほどの長い時が経とうとも憎しみは忘れない。
忘れているのなら思い出させるまで。
真に復讐を遂げたのは誰なのか。
過去を忘れていたのではなく、忘れたかったのか。

自分の罪から逃げた人間と一生を費やしてでも憎しみを忘れなかった人間の違い。


オチに気づかずにラストを迎えたかった。
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