ひしくい

手紙は憶えているのひしくいのネタバレレビュー・内容・結末

手紙は憶えている(2015年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

引き込まれるスリラー、すごい。ジモのような復讐劇を繰り広げる老人の映画です(公開はこっちが先ですが)。
黒幕が誰なのかには序盤で気が付いたけども、あの結末は予想できずびっくりさせられました。

思えば「ん?」と思うべきところはいくつかあって、例えばシャワーヘッド、脱ぎ捨てられた服、ぎこちなかったメンデルスゾーンと滑らかに弾けたワーグナーの差、そしてもしかしたらゼヴという名前。

 シャワーヘッドが、ガス室を表す記号としてではなく、実物として記憶に焼きついているなら、つまり実際にシャワーヘッドの下に立たされたのなら、収容所の「生存者」ではありえない。
 また同様に、人気のない床に置かれた服、というのも、脱いだ人間というよりも回収する側の視点と考えたほうがしっくりくる。

 ゼヴ、という名前を伏線ととらえるのは正しいのかよくわからないけど……。狼って、ユダヤ教では不浄?な生き物扱いだった気がする。食べちゃいけないだけじゃなくて、狼そのものに悪いイメージがあるのなら、名前にするのは不自然なんじゃないかなーと。
 でも、オットーが、「ゼヴ」という名前を自分に「つけた」んじゃなくて、「ゼヴ」という名前の人間の身分を「選んだ」んだったら、ゼヴという名前はあり得るということになるから、これに関しては確証がない。
犯罪の被害にあった方の多くは、相手がその罪の重さを自覚し反省した上で裁かれることを望むけれども、自分を被害者だと思い込んでいる加害者は、ある意味完全に罪の重さを知っており、同時に全く知らないという状態なわけだ。マックスにとってはもちろん後者だけども。
 ゼヴは、マックスと出会った時には、クニヴェルトのようにありとあらゆる人に嘘をつき続けるうちに、既に自分がオットーであったことを忘れてしまっていただろうから、マックスはそれはそれは駆り立てられたことだろうなあ……。

最後に画面に大きく表示される原題の "Remember" は、「忘れるな」という実際のセリフのように生々しく感じられて、鳥肌が立ちます。

あと、この映画は、認知症を描いたものとして見ても面白い。あそこまできっちりと寝る・起きるがスイッチになることはあんまりないんじゃないかとは思うけども。
最初は、生きがいややるべきことがある患者がいかに活動的になり、生き生きとするかを描くのかと思っていました……。


オットーとクニヴェルトは恋愛関係にあったのではないか、という考察めっちゃ面白い。病院にいる第2の候補者のもとを訪れるシーンと、ラストシーンが特に面白さを増す。そこまでの相手を完全に自分の記憶から消してしまっていたことに気づいた衝撃……
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