アキラナウェイ

手紙は憶えているのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

手紙は憶えている(2015年製作の映画)
3.8
茶化して言えば、認知症のお爺ちゃん初めてのおつかい的な。しかし茶化しちゃいけない程、深い哀しみと憎しみの連鎖を感じる映画でした。

NYの介護施設で暮らすゼヴ(クリストファー・プラマー)は認知症が進み、妻ルースを亡くした事も都度忘れてしまう。同じ施設の友人マックス(マーティン・ランドー)から手紙を託されるゼヴ。彼らはかつてアウシュビッツ収容所からの生還者だった。その手紙には当時のブロック管理者の情報が書かれており、容疑者は4人。家族を殺したオットー・ヴァリッシュというドイツ兵を見つけ出し、報復する為にゼヴは旅立つ。オットーは"ルディ・コランダー"という偽名を使い、アメリカに入国した。ゼヴはルディを名乗る4人の男達を訪ねて回る。銃を隠し持って。

クリストファー・プラマーの演技が素晴らしく、歩くのも覚束ない認知症老人になりきっていて凄い。寝て起きるといつも「ルース、ルース」と既に亡くなった妻の名を呼ぶ。手に書かれた「READ THE LETTER」の文字で手紙の事を思い出し、旅を続けて行く。

お爺ちゃんの旅なので、ゆったりと。
色んな人が親切に手を貸してくれるのが微笑ましい。

ゼヴが見つめるシャワーヘッド、
車窓から眺める貨物列車、
何処かから聴こえるサイレン、
天井に据え付けられた拡声器…

無意味に思えるカットが、アウシュビッツを彷彿させるメタファーとなっていて興味深い。

ゼヴはかつてピアノを弾いていたけど、最近は認知症により弾かなくなってしまった。それでも、行く先々で急に思い立った様にメンデルスゾーンやワグナーの旋律を奏でる。

ピアノは憶えている。
手紙は憶えている。
哀しみも憶えている。
憎しみも憶えている。

展開が若干読めてしまうけど、読めたからと言ってこの映画の価値は変わらない。

何年経っても決して風化しない負の感情が胸に突き刺さる。

やっぱり定期的にホロコーストや戦争を扱った映画を観よう。その時代を生き抜いてきた世代がこの世を去ってしまった後も、映画は語り継いでくれているから。

映画は憶えている。