荒野の狼

レイルロード・タイガーの荒野の狼のレビュー・感想・評価

レイルロード・タイガー(2016年製作の映画)
4.0
2016年の中国映画。ジャッキーチェンは、2011年に、中国の近現代史として重要な辛亥革命を描いた映画「1911」に出演しているが、本作は1941年の日中戦争で侵略する日本軍に抵抗する中国の庶民と八路軍を描いた映画。アクションとコメディの要素はあるが、暗くなりがちな史的事件を明るく楽しく、誰にでも抵抗なく見られる作品になっている。日本軍の描かれ方も、ユーモアを交えて描かれており、陰惨になりがちな拷問のシーンも、残酷な描写はないので全年齢層に勧められる。ちなみに、このシーンでは、ジャッキーは、息子のジェイシー・チャンと共演しており、二人の顔の相似についてのセリフがある。
本作は日本軍が利用する橋をジャッキーと仲間が爆破できるかという点が終盤の焦点となり、このあたりは、日本軍のイギリス人捕虜を描いた映画「戦場にかける橋」が思い出される。作中でジャッキーは、日本軍に殺された親の形見のパイプについて語る短いシーンがあるが、こうしたシーンをさらりと入れることで、ジャッキーなりの反戦のメッセージのはいった明るい映画になっている点を評価したい(「戦場にかける橋」は名作ではあるが明るい作品ではない)。本作と共通点があるジャッキーの出演作に1982年の「ドラゴン特攻隊」があり、この作品でも日本軍は登場。前半は明るく後半は悲哀に満ちた闘争となり、反戦のメッセージで終了する作品だが、本作はこうした作品と比較して最後まで内容は暗くならず、鑑賞後の後味も爽快。
日本軍の中では、日本人俳優があまり使われていないようで、日本語のセリフがなまっているのが残念。かつて香港映画では、映画のセリフがすべて声優が後から入れるという習慣があり、本作でも、日本人のセリフには、日本人声優があとから声を入れていればリアリティが増したと思われるので惜しい。日本が本作のマーケットの対象になっていなかったのかもしれないが、日本人の観客が見れば、なまりのある日本語のセリフに違和感はいなめない。女性の日本軍人として「由子」が登場し、ジャン・ランシンが好演じているが、「由子」は苗字ではあり得ないので、この辺も、ほんの少しのリサーチがあれば修正できた点と言える。
そうした中で好演していたのが、日本軍の指揮官役の池内博之で、硬軟まじえた演技で堂々の敵役。池内は2008年の映画「イップ・マン 序章(2008年12月)」でも日本の軍人を演じて、ドニー・イェンと死闘を演じたので、本作でもジャッキーとの「柔道対クンフー」の名勝負が期待されたが、二人の絡みは銃の奪い合いのようなものが中心でやや期待外れ。
エンディングはジャッキーの映画の特徴であるNGシーンが流れるが、見逃せないのが、最終版の池内の登場NGシーン。映画では、中国人には冷酷な日本軍人の池内が、シーンが終了すると、中国人の俳優と抱き合って親密さをみせている。現代の日本人と中国人の間に、本来ある友好の象徴と言えるシーンで、これが意図されたものでないNGシーンに入っているところに意味がある。悲惨な日中戦争の歴史を描いた映画のラストに、本作の制作に関わった池内の国際的俳優としての素晴らしい人柄を象徴するシーンを入れた製作者も評価したい。
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