ちろる

雌牛のちろるのレビュー・感想・評価

雌牛(1989年製作の映画)
4.3
初のアレクサンドル ペトロフ作品。
アニメーションではなくて絵画が動く、この手の作品は手放しで好きなので
この作品の素朴なタッチにも始まりから引き込まれるようだった。
雌牛が子牛を想い、少年が雌牛を想う。
子供と引き離された雌牛の引き裂かれた心は人間の少年の柔らかい感触ではまかなうことが出来ず、一つの悲劇がまた悲劇を生むことになる。

広い農場と列車の線路が密接するという独特な立地、常に列車の汽笛の音を耳にしながら眠りにつく少年は毎日電車の夢を見るのだろう。
列車の音、走る哀しみの雌牛。
夢の中の出来事が混沌となりそれがやがて現実と知らされる。
死してもなお人間たちに与えてくれるばかりの雌牛に少年は何を思ったのだろう。

油絵の独特のタッチが雌牛の生命力の尊さを表現し、狂気にまみれた母性を細部まで描き切る。
短いけれど、強烈なエネルギーを感じられる作品でした。
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