Qちゃん

おかしな男の夢/おかしな人間の夢のQちゃんのレビュー・感想・評価

3.7
自殺を決意していた男が、助けを求めた少女を邪険にして心揺らいでしまった夜に見た奇妙な夢のうちに真理を見出す。

とにかく男の独白の分量と内容が濃く深く、そちらの理解に神経を尖らしていたら、旋風のように変化する繊細な映像を見逃しそうになり、何度か戻しながら鑑賞。

いつも以上に人類の根幹的な苦悩と宗教的・哲学的真理について深く追求しようとしてるなーと思ったら、なんとドストエフスキー初期の短編の映像化。納得だわ。

しかしなんと美しく哲学的な映像化。レビューで「文学作品を映像化する意義を見出せる」と書いてらっしゃる方がいたが、まさに。ペトロフの「老人と海」や「春のめざめ」(後者の原作はイワンシュメリョフ「ある愛の物語」)も然りだが、本作は特に、ややもすれば堅苦しく重苦しくなりがちなドストエフスキーの人間についての深い観察眼に基づく考察を、その真理と文学性を生かしつつ、美しい絵と表現力でアート領域と言えるほどの作品に落とし込んでしまえる手腕に驚かされる。

全ての人間が、他者や自然界と融合して幸せに暮らす世界。それはまさに思い描いた通りのユートピア。

そして、それを汚すのは自分。

男のたった1つの行動をきっかけに、喜んで堕落していく人々。
現実よりも教義が、思想が理想を説くのみとなった荒廃した世界。

ユートピアの成れの果て。
それはまさに、現在の世界。

ドストエフスキーの原作読んでないから元からなのか監督の解釈か知らないが、男が出会う少女に向ける眼差しが、純粋無垢の象徴への憧憬と共に、性的な邪心を含んで見えて複雑。
Qちゃん

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