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哭声 コクソンのkouのレビュー・感想・評価

哭声 コクソン(2016年製作の映画)
4.5
《恐怖と思考の停止》
ジャンル分けできない映画とはまさにこの事。この映画の芯の部分でもあるのだが、掴もうとしてもつかめず、惑わされる映画だった。「チェイサー」「哀しき獣」のナ・ホンジン監督の最新作である今作は、観終わって「すごかった」と呆然としてしまうほどの問題作で、ガツンとくる素晴らしい一作だった。

コクソンという田舎町で、連続殺人事件が起こる。主人公はマイペースであまり事件などには慣れていない警官ジョング。連続殺人事件はとても奇妙で、家族の1人が家族全員を惨殺するというもの。犯人は全身に湿疹を起こし、目は濁っている。そんな中、ジョングは町に怪しい日本人(國村隼)が住み着いたという話を聞く。

劇中には多くのミスリードが隠れている。事件の真相について観客が推察しても、すぐさまに裏切られるようなことが起こる。そして事件の真相というのは最後まで二転三転し続けるのだ。また、例えば死んだ人たちの写真や、呪いの人形のようなもの、祈祷、花や鳥たちなど一つ一つのアイテムが僕らの思考を揺さぶる。常に考えさせられるような内容だった。

今作について僕は人間の「弱さ」についての映画だと思った。自分の分からない者に出会った時、人は恐怖に怯える。自分の理解の範疇でしか物事を図ることが出来ない。そして何かを決めつけるということがどんなに危険なことか。その決めつけの理由も噂や先入観、夢など根拠のないものが元になってしまっているのだ。

一見すればおかしなこと、それでも僕らは先入観を取り払うことができない。今作で物語の流れと少し離れて、後から振り返ると異質なシーンがある。雷に打たれても死ななかった男についての件だ。そのことについて妻は「漢方薬を飲んでいたから」と答える。そんなはずはないのに、おかしな「根拠」から「事実」に対する理由を結び付けてしまっているのだ。そしてそれは警官達の事件への態度にも表れている。急に現れたよそ者、怪しそうという事で日本人を疑い、強引に捜査を続ける。

恐怖は思考を停止させ、思い込みは確信に変わっていく。それはこの映画を見ている僕達にも同時に言えることなのだと思う。多くの人の今作への解釈を見ているととても面白く、僕自身もいまだにあれは何だったのだろう?と考え続けている。見ている間ずっと体に力が入ってしまい、156分があっという間だった。もう一度公開中に見れたら見たいな。ナ・ホンジン監督の今後の作品も大期待している。
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