きんゐかうし卿

哭声 コクソンのきんゐかうし卿のネタバレレビュー・内容・結末

哭声 コクソン(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

 

自宅にて鑑賞。ミステリーの作り乍ら、中盤以降オカルトっぽくなり、オープニング・テロップ(新約聖書、ルカによる福音書24章 37-39節)の引用通り、進行と共に宗教色が濃くなる。K.ドウォンの“チョン・ジョング”とK.ドユンの“オ・ソンボク”もユニークだった言動が徐々にシリアスになり、後半では全く違った役どころとなった。監督の特徴である雨のシーンも多く、犬もしっかり登場した。本作に限っては、食事をするシーンが多い様にも思えた。妙なのを観てしまった想いが強く、万人にはお薦めし難いが、癖になる。85/100点。

・タイトルは物語の舞台である長閑な自然が広がる田舎町“谷城(Gok-Seong)”の当て字であり、韓国全羅南道谷城郡は監督の故郷でもある。どこか懐かしい風景とは裏腹に不気味で凄惨な事件と云う対比に正体不明の人物が跋扈する物語は観る者を惹きつけ、細かな綻びが気にならなくなる。

・'16年における第37回青龍映画祭にて、外国人として助演男優賞を初受賞した國村隼を始め、C.ウヒの“ムミョン”と謎を秘めたキャラクターを複数配置し、相対させた点が本作の大きな挑戦であり、不思議な魅力をもたらしたと云えよう。疑心暗鬼に陥り、二転三転するクライマックスから辿り着く真相は登場人物達同様、観客も惑わされ、善悪の概念が揺らぎかねない──独特な後味と輝きを放つ反面、好みが分かれる所であろう。

・H.ジョンミン演じる祈祷師“イルグァン”が儀式を執り行うシーケンスは約15分間に亘り、ノーカットで収録された。國村隼が行う祈祷シーンは監督曰く、ネパールのシャーマニズムを参考にしたらしい。“ヒョジン”のK.ファニは、もがき苦しむシーンに活かす為、約半年間モダンダンスを習ったと云う。

・クライマックスで登場するカメラは、'78年製ミノルタハイマチックS(Minolta Hi-Matic S)である。冒頭の引用──イエス・キリストの科白を繰り返し、写真を撮る國村隼の掌には聖痕も見られる。もし仮にK.ドウォンの“チョン・ジョング”が云い付け通り、三番目の鶏の鳴き声を待っていたらとも思うが、これらは個々のアイデンティティーが露呈する場面なので、結果は変わらなかったのではと思われる。

・鑑賞後に矛盾してる、辻褄が合わない、破綻している等と云った事を感じたのなら、それは先入観や固定概念がきっと邪魔をしている。亦、面倒臭さから思考停止に陥ったり、自分なりの解釈や熟考を止めると、消化不良、観客に丸投げ等の残念な感想を持ってしまう。思い込みや僻見等を捨て、フラットな状態で観れば、違った解釈が産まれてくるのではないだろうか。何より監督自身が生粋のクリスチャンである事を鑑みれば、自ずと答えが浮かび上がってくる。

・鑑賞日:2017年9月11日