シュローダー

アリー/ スター誕生のシュローダーのレビュー・感想・評価

アリー/ スター誕生(2018年製作の映画)
4.0
この映画の「年間ベスト12位」くらいの位置が、なんともちょうど良く思えてしまう。良いところも悪いところもバランスよく配置されていて、適度に「面白すぎない」この構成は、4回目の映画化となる「スタァ誕生」から変わらぬプロットと相まって非常にクラシカルなハリウッド映画の感覚を思い起こさせてくれる。まずは良い所から。映画が始まってすぐのブラッドリークーパー演じるジャクソンのライブシーン。このシーンから一気に引き込まれる。全編を通して通底される、役者の横に張り付くような超絶的な撮影は、映像の画質と相まって、とても美しい。勿論、レディーガガの圧倒的な歌唱スキルは素晴らしいが、それにも増して彼女と並ぶほどのスキルを見せつけるブラッドリークーパーの歌唱とギター演奏にグッときてしまう。彼が4年間毎日トレーニングを重ねたという話を聞けば、より感慨が増す。中盤ははっきり言って退屈。レディーガガとブラッドリークーパーがおでこをくっつけているだけで、特に起伏は無いし、音楽的にも真に胸に迫るものは無い。この映画全体の欠点として、"2人だけの物語"というセカイ系的側面があまりにも全面に出過ぎていて、観客まで置いてけぼりでレディーガガとブラッドリークーパーが愛し合ってしまうというのが挙げられる。彼女たちの心情説明は非常に簡素な形でしかなされないので、深入りは出来ないのも、この物語がどこか他人事に思える要因だろう。だが、ラストのレディーガガの歌唱シーンによって、この映画は半ば反則的にエモーションに突き抜けていく。その前に訪れるジャクソンのある決断の場面。この場面でジャクソンの後ろから差す照明がライブシーンと同じような当たり方をするのが、非常に映画的な心情の説明であると感じた矢先、あのラストの歌である。時折フラッシュバックするジャクソンとアリーの姿だけでもうあざといのだが、最後の最後。歌っている途中に突如ブラッドリークーパーの歌にカットが切り替わるあの瞬間。虚を突かれた見事な演出に涙を止められなかった。そして、非常に粋なエンドロールへの移行。ブラッドリークーパーの職人としか言えない監督仕事は、まさしく彼の師匠筋にあたるクリントイーストウッドに通じるものがあると思う。彼の今後の仕事にも期待が持てる。総じて、年間ベスト10には入らないし、来年まで覚えてるかもわからない。だけれども、嫌いにはなれない。そんな作品だった。僕はガガ泣きというよりかは、ブラッドリークーパーに泣かされてしまった。
鈴木亜美の「それもきっとしあわせ」がもっと似合う映画だったらより大好きになっていた。