回想シーンでご飯3杯いける

アリー/ スター誕生の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

アリー/ スター誕生(2018年製作の映画)
4.2
他の方も書かれている通り、レディー・ガガの歌唱が素晴らしい。冒頭に鼻歌で歌われる「オーバー・ザ・レインボウ」、そしてドラァグ・バーでのライブ・シーンで、既に涙が流れそうになる。

実話物ではなくフィクションである事。だからこそ自由に描かれる2人のミュージシャンのドラマティックな人生。そして、ガガという実在のミュージシャンが書き下ろした曲とパフォーマンスと、彼女のキャリアと絶妙にリンクするストーリーによって、本作は音楽映画という表現手法の理想的な形を提示したと思う。

しかし一方で、ガガ(アリー)とブラッドリー・クーパー(ジャック)が歌う曲が、カントリー/ブルース・ロックという、日本で馴染みの薄い音楽である事や、ストーリーの重要な部分が歌詞や演奏によって表現されている事から、物語の細かいニュアンスを掴み辛く、後半が冗長に感じた人も多かったのではないだろうか。

例えば、「ロイ・オービソンの追悼ライブでバックバンドとして参加するジャック」のシーンがあるが、それがどういう意味合いを持つのか理解できる日本人はかなり限られるだろう。また、あのアレンジが最悪にダサい事もポイントだと思うのだが、これもなかなか伝わり難い部分だと思う。他に、劇中の台詞にフランク・シナトラやウィリー(ネルソン)の名前が出てくるが、そのニュアンスを掴めるかどうかで発言者の見え方も変わって来る。

これらの描写を指して、監督が不親切だとか、日本のお客さんが無知だとか指摘したい訳ではない。そもそも日本の音楽業界や情報メディアが、欧米の土着的な音楽や、その背景にある文化を紹介してこなかったという、かなり根深い問題が背景にあるからだ。結果的に、日本で好まれる音楽映画は「ボヘミアン・ラプソディ」に代表されるように、難病で死期が迫ったミュージシャンによる生き様を描いたような、実は音楽とさほど深く関わりの無い作品という事になってしまう。

同じ年に公開されたロック映画という事で、今後「アリー」は「ボヘミアン・ラプソディ」と並べて語られる事になるだろうが、先に書いたように手法としては対照的な作品であり、僕が強く音楽を感じたのは、間違いなく、この「アリー」の方である。