ハリウッドにおける女性監督の先駆者、ドロシー・アーズナーによるプレコード期の映画。レズビアンとしての自己のパーソナリティを公にしていた他、キャサリン・ヘップバーンなどの女優を排出したり教え子にフランシス・フォード・コッポラがいたりなど、後年においても重要な作家だったのがわかる。
冒頭の“秘書と社長の掛け合い→パーティでの遭遇”という一連の下りで「これは三角関係を軸にしたメロドラマあるいはラブコメなんだな」と認識していたが、夫の転落ぶりが露呈してからは怒涛の勢いで空気が変わり始める。投資の失敗どころでは済まない事態で不穏な空気に包まれ、最終的にはノワール顔負けの展開へと突き進んでいくのでたまげる。社長も社長で痴情のもつれから秘書をクビにするなど問題があったものの、そこから夫の堕落ぶりが急転直下で描かれていくので味わい深い。
序盤における掛け合いはウィットに富んだ台詞回しや流れるようなテンポが印象深く、要所要所でのセットの構図も映えている。とはいえ画面自体の味には乏しく、またメロドラマ的な流れを想定していただけに中盤からの急展開に困惑させられたのはある。脇役で出てくるジンジャー・ロジャースの“頭の弱い女性”ぶりにもちょっぴり苦笑いしてしまうが、主演であるクローデット・コルベールの雰囲気はやはり魅力的。
コルベール演じる利発で自立的な女性が“結婚生活”によって揺さぶられる構図、婚約も厭わずに続く三角関係も含めてプレコード期ゆえの大胆さを感じる。コルベールの人物造形は以後のハワード・ホークス映画のヒロインも想起させられる。あれだけ話が転がったうえで最後は収まるべきところに収まった感も否めないが、作家自体も込みで何だか興味深さのある映画だった。