【デプレシャン特集4】
妹にDVDを貸すので、急遽鑑賞。デプレシャンが苦手な私でもそこそこ楽しめ、尚且つデプレシャンらしさが出ている作品だった(個人的に『ジミーとジョルジュ』が一番マシなのだが、あれは彼のフィルモグラフィーの中で異端だ)。
ドイツとフランスの国境移動中の青年二人が検問に引っかかる。そして、一人はどこかに連れてかれ、もう一人のバッグには何故か生首が仕込まれていた!
通常の映画なら、ハラハラドキドキサスペンスになるところを、映画的表現を棄てた男デプレシャンの手にかかった途端、全く別の側面を魅せる。
なんと、『リバーズ・エッジ』のような、死体に惹きこまれた男が死から生を見いだす様を描いた心理劇となっていた。
そして、恐らくデプレシャンはアンドレ・バザンのミイラの話を非常に意識して本作を撮ったのだろう。ヒトは死を通じて、時間から解放され、魂も解き放たれる。写真や映画は半永久的に死を時間に閉じ込め、魂が檻に幽閉されてしまう。古代エジプト人は、死体をミイラにし、ピラミッドの奥底に保管することで、《魂を救うこと》、そして《故人との想い出を保存する》というジレンマを克服した。
閑話休題、本作は、謎の死体を得た男が、政府に見つからないように隠し、生物学の知識を使って死体のルーツを探る。死体を隠す行為は、一目にさらされて魂が檻に幽閉されること避けようとしている暗示である。
一方、男が死体を分析する様子は、魂のアーカイブとしての機能を果たしている。そして、映画的表現を避けることで、アンドレ・バザンの理論を映像に落とし込んだ。
そう考えると、ミステリーなくせして宙吊りな終わり方をする本作に納得がいく。そして、カイエ・デュ・シネマがその年のベストテンに入れたのも納得だ。