やわらか

幼な子われらに生まれのやわらかのレビュー・感想・評価

幼な子われらに生まれ(2017年製作の映画)
4.3
おそらく年間ベスト5に入る上質な邦画。男性と女性、大人と子供、妻と夫、立場で異なる家族との関係が「妊娠」をきっかけに揺れ動いて行く様を繊細に描く。
 
この映画、浅野忠信さん演じる主人公が、前妻に引き取られた娘と遊園地で逢うシーンから始まる。離婚調停の条件で年に何回か娘と過ごすことになっていて、という流れ。これ、自分も両親が離婚していて、全く同じシチュエーションを体験しているのですごく心に響いた。たまにしか会わない親子のぎこちなさみたいなのも分かって。なので、純粋に作品の評価は4.1点ぐらいなんだけど思い入れで加点しちゃった。
 
はじめに「ベスト5」と書いたけど、このところのシリアスな邦画って、「怒り」とか「永い言い訳」、「愚行録」とか、やっぱり特殊な「死」を扱っている作品が多い。「死」が脚本のネタとして強力なのは事実だけど、その分話が非日常側に行ってしまう感じがある。それに対してこの作品は、日常の中で起こりうることだけでシナリオが構成されているので、より現実的な奥行きがあると思ったな。
  
一方この映画の中で少し気になる部分もあって、今、父親が違うとは言え、子供が3人居る家庭って比率的にはかなり少ないんじゃないかなと思う。この主人公みたいに中堅サラリーマンとしてやっていて3人目の子供を産むのってあまり現実的でないのではないかと思ったり(2人子供居て専業主婦だともっと生活が苦しい筈)。あと、子供が自分の母親が妊娠することに過剰に反応するところも、そこまでかな?と。その辺りの違和感が、1996年に書かれた原作の、ちょっとした時代のズレを感じさせている気がする。逆に当時の感覚が分かる世代の自分自身としては違和感はないんだけど。(でもこの原作、大好き。)
 
出演している俳優さんはみんな素晴らしかった。「男性」と「父親」の間で揺れ動く微妙な年齢を表現した主演の浅野忠信さんと、ある種の女性らしさを過剰なまでに見せた妻役の田中麗奈さん。田中さんと対になる自立した女性を演じた寺島しのぶさん。3人の外側でアクセントを付けていた宮藤官九郎さん。中でも思春期の難しい娘役を演じきった南沙良さんは最高だった。はじめての演技とは思えない輝き方。
 
そうそう、思い入れと言えばもう一つ。この作品で印象深い舞台として、主人公が暮らす住宅地の斜行エレベーターがある。ロケ地になったのは西宮市の名塩(映画上の設定は関東だけど)。阪神エリアに暮らしていた自分としては、斜行エレベーターと言えばここで、小さい時から中国自動車道を走りながら何度も何度も眺めた場所。そう言う意味でも思い出深い作品だったな。
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