けまろう

幼な子われらに生まれのけまろうのネタバレレビュー・内容・結末

幼な子われらに生まれ(2017年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

『幼な子われらに生まれ』鑑賞。うまく家族を作れないバツイチのオトナたちとそれに心を揺らされるコドモたちの話。演技のリアリティに思わず涙を流してしまった。素晴らしい作品だった。
主人公の信は激務の元妻(大学勤め)と離婚し、バツイチで奈苗と再婚する。実の娘さおりは元妻が親権を持ち、年に四回会うことになっている。そして、奈苗の連れ子二人と暮らし、毎日のようにお土産を買って帰り、子供たちの「歓心」を得ようと努める。物心ついた時に信が父親だった次女は問題なく懐くが、長女はどこか距離を置いている。そして、奈苗の妊娠(本当の実子の誕生)すると、長女は「この家嫌だ」と言って元の父親に会いたいと懇願する。実子をかわいがる父親、依存症の母、愛情に飢える長女、何も知らない次女……そんなツギハギの家族が、ひとつになろうとする物語。特に、さおりとの関係を次女に説明する雨の車中でのシーンは涙無しには見られない。
印象的なのは「階段」と「自動昇降機」の存在だ。仕事で疲れきった信は「自動昇降機」を使うが、それは「楽に進む」ことの象徴でもある。信は異母児たちと「楽に」家族になろうとしているのだ。お土産で歓心を買い、問題の理由を追求して父親の仕事をこなそうとする姿に「楽」を求める姿勢が窺える。しかし、楽に家族になどなれるはずもない。それを象徴するのが娘との隔絶だ。通勤時に娘と自動昇降機に乗ろうとするシーンで、娘は父親から逃げるように階段で降り始める。楽に家族になれると考えている父と楽には家族になれないと考える長女の違いがここで現れる。
ほかにも階段は重要なシーンでたびたび登場する。バツイチだった信がバツイチだった奈苗に結婚を申し込むとき階段を登っている最中であったし、新しい父親と家族になれるか悩んでいる両家の娘たちは階段に座り込む。階段とは、新しく家族を作る道程の象徴なのだ。
信は元妻に「相手の気持ちを知ろうとしない」と詰られる。元妻と別れた原因も、そうした自己完結性だったのだ。「こうしていれば家族になれる」という一方的な行動に娘は反発していたのだ。父親が変わることは、尋常じゃないことを娘たちは訴えたかったのだった。
そして、元妻の家族と対面する信。新しい父親の危篤に涙を流す娘の姿(自分以外で新しい家族となった姿)を見て、彼は娘たちの気持ちに寄り添おうと決意する。新しい子の誕生とともに、彼の新しい人生がようやく始まるという構成は、あまりにも素晴らしい終わり方であった。
#映画ファン賞2017
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