ふに

韓国に嫁いだ女のふにのレビュー・感想・評価

韓国に嫁いだ女(2015年製作の映画)
4.5
「映画が偉くて、ピンク映画が卑しいとでも?」

城定秀夫作品は外れがないので有名ですが、これまたかなりの傑作でした。

韓国の、ど田舎の村に嫁いだ由美(七海なな)。夫との暮らしはささやかで幸せ。夫はとても優しいし、セックスレスなのを除いて、生活もそれなりにうまくいっている。しかし、村は過疎のために衰退しまくっており、自治会長である夫は地域振興を命じられる。

自治会で村人から攻められる夫を見て、酔っ払った由美が啖呵を切るシーンが素晴らしい。ケレン味のある演技。

さて、村おこしに立ち上がることになった夫婦。

「映画の誘致はどう?」

由美のアイデアに乗せられ、村は「宿泊・食事無料!映画撮影歓迎」の広告を出すことに。七海なながホームページの日本語版も作ると、早速日本から連絡が。

「宿泊・食事無料」を目当てにやってきた日本からの撮影隊だが、ロクなもんではなかった。なんと、AVの撮影隊だったのである。あろうことか、そのAV監督は由美の知り合いで…

こういうストーリーです。

パッケージやタイトルから想像するような安っぽさエロさはなく、しかもそれを反転させて、登場人物たちに語らせながらコメディとして成立させている。自己言及的でありながら、嫌味なところはなく、けっこう普通に笑える。それは監督役の俳優の演技が良いのが大きい。あからさまに「ギョーカイ人」のいでたちが、妙なリアリティとユーモアを感じさせる。

ど田舎に住む村人たちの演技も面白い。この村人たちは「映画内映画」のエキストラとして参加している設定だが、実際にこの映画自体のエキストラでもある。メタ構造が入り組んでいる。

由美と夫との関係が、すごくほのぼのしていて可愛らしい映画なのも良い。愛に溢れてる。しかも、映画愛に溢れてる。

この映画には、ゴダール、フェリーニ、『荒野の決闘』、そして城定自身の『ラブ&ソウル』の名前が出てきます。

いつも高いクオリティで作品を作り続けている城定秀夫監督ですが、まだまだこんなに面白い映画があるんですね。多作ぶりには圧倒されるばかりですが、これからも見続けて行きたいと思います!

【追記】
夫と妻との心理的距離を表すシーンの撮り方なんかは、非常に映画的。塩田明彦『映画術』に挙げられていたテクニックと類似してて、見ていて「これだ!」と思った。

食事の使い方もうまい。納豆をよく食べる由美。

夫と喧嘩したとき、明かりのない暗い食卓で、納豆にキムチを混ぜて食べるシーン。七海ななの演技、小道具の使い方、監督の演出、どれをとっても素晴らしかった。
ふに

ふに