あくとる

ワンダー 君は太陽のあくとるのネタバレレビュー・内容・結末

ワンダー 君は太陽(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

Rotten Tomatoesを始めとした各所での絶賛は目にしていましたが、個人的には"ある懸念"があって斜に構えてしまい、あまり期待しておりませんでした。
その懸念とは「障害を持った主人公をいかにもかわいそうに描き、お涙頂戴のあざとい作品に終わっていないか?」ということです。
結果この懸念は外れておりました。

この映画で何よりも素晴らしいと感じたのは、この映画がオギー"だけ"の物語に終わっていないところです。
これは親子の物語でもあり、姉弟の物語、そして友情の物語でもある。
もちろん物語の中心人物は主人公オギーですが、回りの人物が決してオギーの引き立て役としての薄い存在に終わってなどいません。
特に「姉ヴィア」と「初めての友人ジャック・ウィル」、加えて「姉の親友ミランダ」の視点とストーリーがあることで、この映画の魅力と感動がグッと高まっていると感じました。
オープニング後、黒い画面に白文字で"オギー"と出たときは「あれ?」と思いましたが、なるほどそういうことだったのか。





自分に鋭く突き刺さったのは姉ヴィアのストーリー。
レディバードでは「注意を向けることは即ち愛情である」という言葉があったが、それは逆に言えば「注意されない自分は愛されていないのではないか?」というヴィアの苦悩そのものです。
親以上に気を掛けてくれる一番の理解者の祖母は亡くなり、親友だったはずのミランダは別人のように変わってしまう。
そんな辛い場面でも、今まで"手がかからない良い子"として生きてきた彼女はその悩みを両親にはなかなか打ち明けず、ひとり浜辺で祖母との思い出に浸る。
やっと目を向けてくれた母がオギーに奪われてしまった場面でも、彼女はオギーに当たったりせずに優しい姉として気遣う。
弟のオギーを愛しており、両親の苦労もわかるからワガママなど言えず、手のかからない良い子としてたくさんのことを我慢してきた彼女の内面を考えるとそれだけで思わず泣けてしまいました。
また、ミランダがイケテる自分を演じるためにヴィアを避けてしまうのは、「レディバード」の"クリスティンとジュリー"の関係を想起。
避けようとしているはずなのにヴィアに目が向いてしまい、遂には耐えられずにオギーに電話する。
わかっていても本人にはなかなか言い出せないもどかしさ。
ミランダのアシストによって実現したヴィアの熱演は、彼女がついに報われる素晴らしく感動的なシーンでした。

オギーの親友ジャック・ウィル。
彼は思わず同調圧力に屈し、思ってもいないオギーの陰口を叩いてしまう。
多くの人は群れていればそれだけで安心できるし、孤立を非常に恐れる。
学校などという極めて狭い空間なら尚更。
個人だったらやらないはずのいじめにも荷担してしまう。
自身がいじめの標的にされないため、保身に走ってしまうジャックの過ち。
彼の弱さを責めることは自分にはできません。
だからこそ、"同調圧力の呪い"をついに打ち破った"あの瞬間"、ジャックが漢になった瞬間が胸を打ちました。

両親は素晴らしい人格者。
優しくも厳しい母親とユーモアで雰囲気を和らげる父親。
普通の学校に通わせることで、オギーが辛い目に合うのは火を見るより明らか。
親としてはこれ以上なく辛い選択なのだけど、仮面を被ったまま生きるのは本当の解決ではないんですよね。
キャンプ授業に旅立つバスを見送る二人。
「こっちを振り向きもしない」という言葉に詰まった喜び。
最後に明らかになるヘルメット紛失の真相には思わずグッと来ました。
お父さんも"ただ優しいだけ"の存在じゃなかった。





ジュリアンの悪行がばれ、両親共々校長室に呼ばれたシーン。
それまでの映画の流れからすると、このシーンの後にジュリアンのストーリーが始まり、彼に同情させるような展開になるかと思いましたが、結果それは無かったので良かったです。
(あの両親のヤバい雰囲気はビンビンで思わず察してしまうけど…)
いくら事情があったとしても、彼の行為は簡単に許されることではないので、フォローせずに突き放したのは良い判断。

前半のスターウォーズを引用したギャグもチャーミングで良かったです。
まさかチューイとダースシディアスが出てくる映画だったとは…笑





ジュリアンとその両親への校長先生の言葉。
「彼の見た目を変えられないのであれば、自分たちの見る目を変えるべきなのでは?」
もちろん現実はこの映画ほど簡単ではないかもしれないけど、一人でも多くがこの言葉を意識し、サマーやジャックウィルのように声を上げる勇者が増えることを願ってやみません。
もちろん自分もそうありたい。
「もし世界が敵だらけだったとしても、理解者が一人でも近くに居てくれさえすれば、世界は全く変わって見えるのかもしれない」なんて柄にもなく真面目なことを見終わって考えてしまいました。

(あと、非常にどうでもいいことですが、担任教師を演じるDaveed DiggsがJ.Coleに見えてすごく気になったのですが、誰か共感していただけるでしょうか…)