龍じん

ワンダー 君は太陽の龍じんのレビュー・感想・評価

ワンダー 君は太陽(2017年製作の映画)
4.0
原作を1年程前に既読。先天的障害を乗り越える主人公の話は数多あれど何かこの作品は違うと感じたのですが、当時はそれが何なのか分かりませんでした。

『エレファント・マン』『マスク』(ジム・キャリーじゃない方)等生まれつきハンデを背負った人間の作品は、実話が元というのもあってかどうしても主人公本人にばかりスポットライトが当たり、概して見識に溢れ人格者であることが多く自らの力で道を切り拓いていきますが、本作は若干それとは趣きを異にしています。
主人公オギーは確かに成績優秀ではあるものの、癇癪も起こすしイジケもする。外界の容赦無い視線には妄想の世界に逃げ込む(それらに負けない方法論としては間違ってないのかもしれないですが)。友人の裏切りに対して幼稚な態度で無視をする。
褒められた行動ではありませんが、いた仕方無くもあります。幼き主人公に普通とは違うありのままの自分を受け入れろ、高尚な精神を持て、清廉の士たれというのは余りにもハードルが高く難しいことです。

その様な厳しい状況にあってオギーが腐ることなく成長を成し遂げていけたのは、常に誰かが傍らにいてくれたからです。この手の作品はとかく主人公が孤独になりがちですが、劇中オギーは余り一人でいることは無かった様に感じます。初めて学校へ登校する息子(弟)を家族全員で校門前まで送り出す程絆深きプルマン一家ですが、特に母親イザベルの存在が大きいですね。
オギーが学校という舞台で初めて好奇の目に晒され折れそうになった時、全てを引っくるめてオギーの存在を「認め」、自ら「認める」ように言い放った母親イザベルの言葉は心を打ちます。
「心は未来を示す地図。顔は過去を示す地図。だからあなたは絶対に醜くない」彼女の言葉があったればこそオギーは変わることが出来たし、周りも変わることが出来たのでしょう。

加えて本作においてこのセンシティブなテーマを表現するのに効果的かつ特徴的なのは、主人公オギーの視点とは別にいくつかの視点で構成されている点です。障害を持つ「本人」の葛藤と苦悩は多くの作品で描かれる主題とも言うべき描写ですが、本作は「彼に関わる人間」の視点に相当量の時間が割かれています。

ヴィアはハンデを持って生まれた弟を想い支えることのできる「出来た」姉だ。弟を愛しながらも多感な時期に両親の愛情を独り占めされてしまった少女時代。唯一の拠り所であった祖母。二人だけの秘密。そして別離。

ジャック。オギーの最初の友人かつ肉親以外における最大の理解者。…でありながら、子供であるが故の軽率な会話でオギーの信頼を失墜させてしまう。彼に悪意が無かったこと。その場の空気に流されてしまったこと。

ミランダの視点はオギーへの関わりというよりは、ヴィアとの関係に自ら壁を作ってしまった後悔と懊悩の吐露。オギーが障害を持っているにも関わらず、否だからこそ強い絆の存在するプルマン家への憧憬と恋慕を募らせる。

それぞれの複雑な感情がそれぞれの「一人称」で語られます。
三人の視点はオギーが重要なファクターを担ってはいますが、全てがオギー中心に回っている訳ではないということの表現が製作者の意図するところではないでしょうか。
ヴィアの嫉妬・ジャックの戸惑い・ミランダの羨望どれも彼等の視点でなければ分からないものです。可視化されて初めて、障害者当人ではなくそれに関わる人間にも、彼ら自身にしか分からない考えがあり人間関係があり人生があるということ、そこにこの映画のリアルさがあることに私は気付かされました。

様々な人間関係が絡み合った中で、オギー=障害者のみの努力では問題は解決しないコトが明確化されます。人間の尊厳はする側とされる側両方の確固たる意志を持って初めて顕在化されるのです。オギーが自らを認め、周りの人間も彼を認めた時、ジャックやサマー、ブラウン教師やトゥシュマン校長、果ては彼を攻撃してきたいじめっ子達までその輪は広がりオギーの世界はより良き広き世界へと向かっていきます。この『Wonder』という物語は作者が我が子の教育のために書いたということは有名な話ですが、当作品が障害を持つ人々を我々「見る側」を意識して作られた作品であることは疑いようもありません。

当作品を鑑賞した同疾患患者が「感動ポルノだ」と批判したという話もありますが、人間はかくあるべきという原作者・監督の明るく強いメッセージは伝わってきます。
幸か不幸か私の身の周りには、オギーの様な厳しい環境を背負って生きている人はいません。しかしいざその様な人を目の前にした時、こちら側に立つ人間がすべきことを指し示してくれている様な気がします。
何事も上辺ではない本質を正しく判断するのに重要なこと。それは
「良く見ること」なのだと。


追記
仕事が立て込んでて久し振りの劇場鑑賞。
レビュー自体は妙に堅苦しくなってしまったけれど、疲れた体と心に沁み入る優しい作品でした。
心がささくれだってる人にオススメ☆☆☆

結局オギーと理解し合うことなく画面から姿を消したジュリアンの存在も実際にあり得る現実のシビアさなのでしょうか。彼が本当に悪だったのかどうかは分からないですが、最後に彼がトゥシュマン校長に残した「ごめんなさい」は唯一の救いに感じます。彼を主人公にした外伝があるそうなので、いつか読んでみたいと思います。
龍じん

龍じん