つのつの

ワンダー 君は太陽のつのつののレビュー・感想・評価

ワンダー 君は太陽(2017年製作の映画)
4.3
驚異的な傑作。

ジュブナイルモノ、そしてアメリカ学園モノというある種のジャンルムービーとしては完璧に近いと思う。
重要なのはこの二つのジャンルを、どちらも過不足なく描ききってる点。

本作最大の特徴は、他の人とは違う顔を持った少年が小学校に入学するという大筋のドラマに、様々な視点の導入したこと。
主人公オギーはもちろん、先述した通り姉、姉の友達、オギーの友達など、さらに具体的に章分けされてない両親の描写に至るまでびっくりするぐらい丁寧だ。
そのどれもが素晴らしい場面の連続で語るときりがないので、大きく分けてオギーのジュブナイルパートと、オギー姉ヴィアのアメリカハイスクールパートについて書きます。

まずオギーパート。
やってることとしてはよくある少年少女映画だけど、演出がすこぶる上手いからどんどん没入していきました。
靴を見て人を測っていたオギーの下向きの視線は(この時点で決してオギーは聖人君子ではなく成長が必要な「普通」の子供として扱ってると思う)、徐々に友達との関わりで上がっていく。
だって靴から見えること、分かることよりはるかにその人は複雑で豊かだから。
ジャックウィル、ジュリアンだけでなくCMの女の子が初めてに出てきたときのイメージと、後に分かる彼女の性格のギャップも忘れ難い。
理科の授業での等速直線運動や担任の先生の格言が子供達の行動の源になるのも、感動的だし同時に物語の進行の説得力と推進力を担保してました。

一方オギー姉ヴィアのアメリカティーンモノ。個人的にはこっちのパートの方がグッときた。
手間のかからない子としてしか生きられなかった彼女の成長がオギーと同じくらい好き。
浮かない顔と地味な服で「(彼女にとっての)初日」登校していたオープニングの彼女が、服装や発言が徐々に明るくなっていく過程の気持ちよさ。
ヴィアとミランダ、ジャスティンのドラマから分かるように、手のかからない子に見えてまだまだ彼女たちは高校一年生。
ミランダの話なんて、やっぱこの子たちも不安や悩みで頭がいっぱいな子供なんだと分かる。
だからこそ彼らの青春映画としても、演劇の発表会で綺麗に収まる。
個人的にヴィア、ミランダ、ジャスティンを主軸にこの学校の演劇部員達の日常を、ディズニーチャンネルでシットコムドラマ化してほしい。絶対見る。

この二つの優れたパートを用意したことは、たしかに「全てのキャラクターを背景として終わらせない」という映画的に「正しい」判断によるものなのかもしれないが、それがそのまま映画的に「面白い」構造に直結しているのが凄い。
オーギーの初登校場面ではモブに過ぎなかったヴィアの視点で、同じ場面が繰り返されたとき、そんな映画だと思ってなかったからか一気に興奮した。
観客の予想を裏切る登場人物の心情が分かる瞬間の面白さ。
今年だとスリービルボードとかに近いけど、こっちはジュブナイル×ティーンムービーという二つのジャンルを横断してるという凄さ!

エンディングもまた素晴らしい。
ここでオーギー持ち上げに留まってしまったという批判もあるけど、個人的には最後までジュブナイルというジャンルに留まったのは偉いと思う。
みんなが彼を祝福して終わりなんて都合が良すぎる事ぐらい作り手はわかってるはず。
それでもこんな綺麗な締めくくり方をするのは、本作が子供に向けた映画であり豪華キャストを揃えた立派なアメリカ映画だからだ。
最後にオギーは他者を推し量るのではなく他者に敬意を払う行為として視線を落とす。
そしてその先に映るのは……共に痛みに闘ってる同志たちだ!
つのつの

つのつの