「我々の見る目を変えなくては」
生後の度重なる手術により「普通」ではない顔を持つ主人公。家庭学習のおかげもあり成績は優秀、宇宙に憧れる普通の男の子であった。しかし世間は彼の顔つきを好奇の目で見、時には容赦ない言葉を浴びせかける。彼はそのコンプレックスを隠すため、外出の際には宇宙飛行士を模したヘルメットを被る。そんな彼が初めて学校に通うことになった一年間を描いた物語。
程度の差はあれど誰しもがその見た目に一度は驚く。そしてなるべく関わりを持たないように振る舞う。あるいは彼をイジメているグループに目をつけられないように、それに荷担すらする。しかし彼の魅力に気付き、自らの良心に従い、一人また一人と彼の味方となる人間は増えていく。それは勉強を教えたり、今の友人に嫌気が差したりと、ちょっとしたことでいいのだ。心を開くことの出来る友人が一人でもいれば、前を向く心の強さを得ることが出来る。
コンプレックスを抱える主人公だけではなく、他の「普通」の人々の視点を組み込むことで、物語の推進力や重層性を得ている。
手のかからない優等生である姉は、弟にかかりっきりの父母に見向きもされないことを理解していただけであり、寂しい思いをしてきた。主人公の初めての親友も金銭的不自由を隠して周囲に無理をして溶け込んでいた。姉の友人も再婚した次の母親と馬が合わず、温かい家庭への憧れを強く感じていた。
心の奥底を覗くことができれば、「普通」である人間などいないのかもしれない、と最後に主人公は語る。見た目や肩書き、社会的地位などにこだわるのではなく、その人自身と向き合い、その魅力を受け入れる寛容さを説いている。