アキラナウェイ

喜望峰の風に乗せてのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

喜望峰の風に乗せて(2018年製作の映画)
3.4
本当は劇場で観たかったけど、何となく虫の知らせが働いて観なかった作品。

邦題がびっくりする程に合っていない。
邦題、こんなんで委員会。

1968年に、ヨットによる単独無寄港世界一周レースに参加したドナルド・クローハースト氏の実話に基づく海洋冒険ドラマ。

単独…
無寄港…
世界一周!?

世界地図を思い浮かべてみましょう。
イギリスを出発し南下、アフリカ大陸最南端である南アフリカ共和国ケープタウンの喜望峰を回り、オーストラリアの南側を通り抜け、南米大陸最南端のホーン岬を回った後に北上。偏西風に乗ってイギリスに帰還するというルート。

そいつは凄い。
はいはい、過酷で孤独な船旅を達成した男の偉業を讃えた作品なのねと観始めたけど…。

ヨットでの単独無寄港世界一周を競うゴールデン・グローブ・レースが行われ、経験豊富なセーラー達に交じって、ビジネスマンのドナルド・クローハースト(コリン・ファース)も参戦する事を決めるが、彼は全くの素人だった—— 。

はい。いつもの如くあらすじまで書いたけど、ここから先はネタバレ含めての記述となります。











全く、想像だにしていなかった展開。

出航の時から、前途多難だった。
彼自身、曇った表情のまま苦難の旅に出る格好となる。

船酔いに苦しみ、嵐に遭い、出航した事すら後悔する1人の男。無線で繋がっている為、他の参加者達の航海スピードや現在位置がプレッシャーとなり、彼を襲う。

かくして男は最大の罪を犯す。

実際の航海実績を偽装し、嘘の報告を重ね、世界一周せずに帰港するという大胆かつ愚かな隠蔽の罪を…。

愛する家族に会いたいが、その家族にまで嘘をついてしまった事。その嘘を抱えて生きていけるかという葛藤。

ドナルドの切なる思いが胸を打つ。

ドナルドの妻を演じたレイチェル・ワイズが、終盤にマスコミに向けて放つ言葉の重みよ。

本作の評判が芳しくない中、皆さんのレビューを拝読していると、どうも日本特有の自己責任論が働いているようで。

要は、ただの素人が碌な準備もせずに無謀な事に挑戦するなんて自業自得だと。

そりゃそうなんだけどね。

ホームビデオに映っている男は、世界初の無寄港世界一周を成し遂げようとする男ではなく、ただ子供達と笑い、妻を抱き寄せる、家族を愛する1人の男だった。それだけに、大嘘つきでも良いから、兎に角生きていて欲しかった。帰ってきて欲しかった。

僕は純粋にそう願い、少なからず感動もした。こんな方が実在したという事を知れただけでも、この作品の意義はあるし。