Yoshmon

ラサへの歩き方 祈りの2400kmのYoshmonのレビュー・感想・評価

4.0
圧倒された一本。

ドキュメンタリー風に制作された、フィクション作品。
フィクションだと知らずに鑑賞していたので、最初は気がつかなかった。けれどカメラワークの要領の良さが時折垣間見え、あれ?あれ?ってなった。

いずれにせよ圧倒された。
ストーリーはチベットはカム地方マルカム県プラ村にて、
亡くなった兄が願いながらも叶得ることの出来なかった聖地ラサへの巡礼を果たしたい齢70近い弟ヤンペル。
その叔父ヤンペルを連れて行くことを決意した甥ニマ。
そしてそれを聴きつけた村人数人が集まり総勢11人で1200km離れた聖地ラサと、そこから更に1200km離れたカイラス山へ総距離2400kmの旅へ経つ。

しかもそれを仏教で最も丁寧な礼拝とされる、
両手・両膝・額(五体)を地面に投げ伏して祈る、「五体投地」で進むという過酷なもの。砂地も、コンクリートも、泥地も、水たまりも。
それはもう巡礼と言う名の修行。

一年近くかかるその旅の道中、
新しい命が生まれ、
生活物資を運ぶトラクターを事故で失い、
資金がつけばある場所に留まり働き、
落石に遭い、
若者は恋に落ち、
老人は希望を果たして命尽きる・・。
信仰心を以て人生を懸けた巡礼。

その原動力に圧倒される。
信仰に関しては、自身の経験や他の映画作品や本からもいろんな視点をインプットしてきたつもりだけれど、ある意味「多様性」のような流行りの視点を持たずともただ周囲の家族・友人知人と共通の愛を共有すればそれで十分な幸福を得られる手段だと思い知る。

宗教とは、人間の孤立に対する弱さから生まれ、
またそれにより想像以上の強さが生まれる。

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そしてもう一点興味深かったのは、制作に際してのキャスティング。
事前にあらすじや設定は決めており、監督が思い描いていたそのストーリーに近い境遇に生きる現地の実際のチベットの住民をキャスティングするというもの。
やらせでもなく、プロの演技でもない、当事者たちのごく自然な表情ややり取りを読み取ることが出来るあまり無い制作アプローチだと思う。

シアター・イメージフォーラムでアンコール上映されたのも頷ける作品。
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