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ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦の小のレビュー・感想・評価

3.6
ヒトラー、ヒムラーに次ぐ、ナチスナンバー3で、ユダヤ人大量虐殺の実権を握っていたラインハルト・ハイドリヒの暗殺計画「エンスラポイド作戦」の史実をもとに描いたサスペンス映画。

ハイドリヒ暗殺計画を企てたイギリス政府とチェコスロバキア亡命政府がパラシュートによってチェコ領内に送り込んだ7人の暗殺部隊のうち、リーダー役を務めたとみられるヨゼフ・ガプチーク、彼とともに行動したヤン・クビシュの視点で描かれる。

物語のポイントはハイドリヒを暗殺すれば、ナチスからチェコへ凄まじい報復があるだろうとあらかじめ予想されていたことだろう。

プラハの反ナチス組織の中には、暗殺計画に激しく反対する人もいる一方で、主人公のヨセフはチェコのアイデンティティーを守るため暗殺を進んで実行しようとしていて、報復による犠牲もやむを得ないと思っているかのようだ。

史実に基づく暗殺計画の実行、ヨセフたちのその後はスリリングで痛々しいけれど、この映画自体の主張は見えてこない。ただ、『ジュリアス・シーザー』という字幕付きで、あからさまに本が映されたから、町山智浩氏のラジオでの指摘がなくとも、これが何かを暗示しているのだろうと想像してしまう。

『ジュリアス・シーザー』は読んだことがないので、ウィキペディアから引用すると次のよう。<ウィリアム・シェイクスピアによって書かれた政治劇・悲劇で、(略) ローマの独裁官ガイウス・ユリウス・カエサルに対する陰謀・暗殺とその死の余波が描かれている。(略) この劇の主人公はマーカス・ブルータスであり、彼の名誉欲・愛国心・友情の間の葛藤が描かれている。>

ウィキのほかに、ちょこっと調べて自分がザックリ理解したことを言えば、このブルータスという人はローマのことを愛するが故に、独裁色を強めていたカサエルの暗殺に参画し、共和制を維持しようとしたらしいけれど、カサエルの死後は国を追われ自害。やがてローマは帝政(独裁体制)へと移行し、パクス・ロマーナ(ローマの平和)と呼ばれる時代が200年くらい続く。

ということから考えると、この映画の言いたいことは、ヒトラーがどうかということはさておき、民主政治は良く、独裁政治は悪いとは必ずしも言えない、ということなのだろうか? それとも、ヨセフをブルータスに見立て、愛国心からの行動が悲劇につながったということだろうか?

写真家でもあるショーン・エリス監督は、2008年11月14日の映画ドットコムの記事で次のように述べている。(http://eiga.com/news/20081114/8/)

<登場人物が説明ばかりするような映画が最近多いけれど、退屈すぎて自殺したくなるよ。僕は(観客に)答えを全部与えずに疑問を残すんだ。想像が夢のように広がる映画の方が面白いからね>

ということで、疑問を抱かせスッキリさせないことが狙いだったというのが、最もスッキリできる解釈かな。

●物語(50%×3.5):1.75
・ 「エンスラポイド作戦」を知ったことは収穫。自分なりの納得ができないのは、自分のせいなのかな。

●演技、演出(30%×3.5):1.05
・抑え気味の演出は好き。

●映像、音、音楽(20%×4.0):0.80
・写真家の監督らしい美しい映像だったかと。
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