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ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦のmidoraのレビュー・感想・評価

5.0
まず、邦題のセンスが無さすぎる。内容の良さを全く伝えていないと思う。何故こんなことになってしまったんだ…
タイトルだけで観賞を迷っている方がいたら、是非ご覧になってくださいとお伝えしたいです。
俳優たちの緊迫感あふれる演技、16mmフィルムで撮影されたというセピアに烟る映像、戦争の愚かさ悲惨さをしっかり伝える実話ベースの内容。
派手なアクションやカタルシスを感じるシーンは一切なく、終始重厚です。

戦時中のチェコがナチスによって滅茶苦茶にされたということ、またレジスタンスという言葉は聞いたことはあっても、テーマになっている暗殺事件=エンスラポイド作戦のことは、この映画で初めて知りました。
この事件をきっかけに、国家としてのチェコの存在そのものが死守された一方、なんの罪もないチェコ人10000人以上が、血の報復としてナチスに殺されました。
彼らの信じた正義は正しかったのか…私には判断できません。否、きっとこれは、正しい正しくないという価値観では語れない、語るべきでない、あまりにも重い歴史の中の出来事です。

戦争映画を観るといつも思うことは、どの国のどんな立場であっても、人間そのものはきっと悪くない、悪いのは善悪の判断を失わせ人を狂気に駆り立てる『戦争』そのものであり、人々は全て戦争の犠牲者だということです。
国家の命に従い、人命を奪い合う。
愛国のために戦う戦士。
それに賛同し匿う支持者。
目を覆いたくなる凄惨な拷問。裏切り。
そして、戦況が進むにつれどんどん狂っていき、虐殺を繰り返すナチスの兵士たち。
それぞれの立場でそれぞれの正義や理想のため、己の守りたい国や愛する人のために戦っています。ですが、幸せは誰にも訪れません。
憎しみが更に憎しみを産み、裏切られ、復讐されまた報復し、辛く惨めな思いはずっと残り続け、死してやっとそこから解放される。
それが戦争に翻弄される人々の姿です。

ラストシーン、全ての苦しみからやっと解き放たれたような微笑を浮かべたキリアンの、この世のものでないような美しい碧眼。
愛する人とささやかな幸せを築きたい、そんな当たり前の願いは、彼らにとっては他の惑星に行くに等しいほど遠いものだったのでしょう。
実際の7人の戦士たちは20代や30代前半の若者で、生還できる見込みがない任務のため独身者から選ばれたそうです。全員の冥福を祈らずにはいられません。
彼らの存在を教えてくれたこの映画に、心から感謝します。
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