茶一郎

RAW〜少女のめざめ〜の茶一郎のレビュー・感想・評価

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
4.3
まだ大学に入学したての少女が、手に持ったその『生(ロー)』を「今すぐ食べたい!」とばかりに見つめるシーンの不快さには流石に耐えきれず、スクリーンから目を反らしました……

 どうやら「お肉を食べちゃだめ」と教えられ育った少女が、誤って口に入れたお肉をベェーと吐く冒頭から不快感が止まりません。今作『RAW』は、ベジタリアンの主人公少女がある事をきっかけに、カニバリスト・人肉食いに目覚めるというホラー。トロント国際映画祭上映時はその不快感から、失神者、体調を崩した観客が続出したという曰く付きの一本になります。

 エリート獣医大学に脈々と受け継がれる迷惑な新入生歓迎、大学生ノリと軍隊のような縦社会との同居への対応に苦しむ主人公含めたフレッシュマンたち。この不快すぎる学園描写に、いつしか「人肉ホラー」と身構えて観ていた自分を忘れていました。特に今作『RAW』は、この閉鎖的な学園描写の不快感に目を奪われます。
 元々おそらく勉強ばかりで、大学生ノリとは程遠い主人公少女は、この偏った大学生活への適応に苦しむことになります。「全く、新入生のためにならない新歓の伝統がある大学って嫌ねー」と観ていると、今作が当たり前のように
「人肉ホラー」に変貌し、呆気にとられながら観客もこの変な映画への適応に苦しむという訳です。

 この主人公少女の「オンナ」への変容。冒頭の交通事故、そして舞台となる街の寒々しい空、何より女吸血鬼(人肉食い)からデビッド・クローネンバーグ監督の『ラビット』を想起させられました。
 今作『RAW』が初長編監督作となるジュリア・デュクルノー監督ですが、今作の前に撮った22分間の『junior』という『RAW』の主演女優とのタッグで短編映画を撮っています。この『junior』は、女性性の欠片も無い主人公の少女が身体の成長や初潮により、自らが「オンナ」に目覚めていくことの恐怖を描いた作品でした。
 少し下品なお話ですが、私はこの映画を見ながら、ある知人の女性が性行為の際のオーガズムから「自分が別人・生身の人間になってしまうのが怖い」と言っていた事を思い出しました。
 性行為、恋愛を通して、人肉食い、獣のようになる少女の恐怖。つまり今作『RAW』はこの『junior』に「人肉ホラー」というフィルターをかけた映画であり、この映画の根本にあるオンナの階段を登り始めた少女の不安は、女性監督であるデュクルノー監督が実際に体感した恐怖に基づいているのだと思いました。

 そして、誰もが経験する性への解放は、女性にとっても、またそれを客観的に間近で見つめる男性にとっても「怖いよね」という所に落とし込まれる今作『RAW』は、映画の質的にも、お下劣な性についてのお話的にも納得のいく作品でした。