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RAW〜少女のめざめ〜のSuguruのネタバレレビュー・内容・結末

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

とんでもない映画を観てしまった。
緊張の糸が張りっぱなし。
カメラはこれでもかというくらい、少女のパーソナルゾーンへと入り込む。
それは恋人以上に接近したありのままの彼女の時間と空間だ。
それによって観客は彼女へと気持ちを自然と寄せることとなる。
しかし、彼女は人の肉を食うという一線を越える。それは罪悪感を越えた衝動だ。観客はこの点において一線を越えることはできない。彼女に対して心の距離を取らざるを得ないこととなる。
しかしその後もカメラは彼女の側で行方を追う。そこに観客の精神的緊張が生まれる。観客にとって彼女の行為がエスカレートするほど精神的負荷は増し、そこで生まれる葛藤に観客は圧倒される。
ホラー映画であれば彼女は敵である存在であり、彼女から逃れようとする人間側に観客はつくのだがそこが全く違う。
彼女は敵のようなタブーを持ちながらも観客と共にある。
そのため、彼女の愛は観客からしても複雑に映り、簡単には受け入れがたい仕組みになっている。
というのも、観客は彼女が彼を愛していることを知ってはいるが彼女から一歩引いている手前、そこに全面的な共感や同情をすることは不可能だからである。
彼女が初めてのセックスで必死に彼を噛みまいとし、自分の腕を血が出るほどに強く噛む葛藤は、頭で理解できても心で感じることは不可能だ。
そしてラスト手前で観客が恐れていたことが起こる、彼女が彼を食べてしまうということだ。実際の真犯人は姉だったのだが、観客はここで彼女の愛の難しさとカニバリズムとの両立の不可能を自覚することとなる。
そしてラスト、両親もまた同じ関係にあり父はその母を受け入れてきたという事実が痛々しいほどの父の身体と共に暴露され、先程不可能を感じた観客はここでまた圧倒されるのだ。
セックスという人間として(種の保存という意味で)快楽を伴う最高の行為、あるいは孤独からの解放という最高の時空間が、肉体がむき出しになりもっともカニバリズムを刺激し、人間として最悪の状態(絶命)に最も近くなる時空間となり、しかも自分を絶命に至らしめようとするのは世界でたった一人の愛した妻である、というもう絶望的とも言えるような究極の愛を父は受け入れているのだ。
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