m

RAW〜少女のめざめ〜のmのレビュー・感想・評価

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
4.7
こんなオシャレなポスターで「少女のめざめ」なんていう思春期の女の子の成長物語みたいな副題が付いてるからちょっと勘違いしてしまうが、もう全然そういう映画ではなく新星ジュリア・デュクルノー監督の狂った感性大爆発の人肉食青春ホラー映画である。
映画の語り口自体が完全に唯我独尊のセンス型なので、分かりやすい成長物語などには決してならず自由闊達に映画は突き進んでいく。

観る前は一昨年の「ワイルド わたしの中の獣」のような、女性が自分の殻を破り己の中の野性(獣性)を解放させていく映画かなと思っていたがあれとは似て非なるもので、「RAW」に比べれば「ワイルド」は遥かに大人しい映画に思える。

確かに『親に束縛されてきた女の子が、大学という新しい環境に揉まれる事で脱皮し欲望と主体性を解放させていく』という主題はあるし、主人公の欲望の象徴として人肉食(カニバリズム)という獣臭い行為を選択した監督のセンスは面白い効果を産んでいる。
しかしそれは序の口で、主人公の欲望の解放っぷりは『女の子の性の脱皮』とか『自我の成長』なんて所では済まないレベルにまでブッ飛んで突き抜けていき、最終的には人間の業を描く所にまで辿り着く。
それとも男性から見るとそう思えるだけで、実は『女の子』が『女』になるにはここまで壮絶な精神と肉体のメタモルフォーゼがあるという事なのかも?という想像を巡らせてもみる。

目を背けたくなるような容赦無い描写のエグさと、分かりやすい構成を拒絶し自由にアッパーに突き進む監督の語り口に観客は振り回される。

やがて映画の軸になっていくのはクレイジーな姉妹愛で、ただクレイジーなだけでなくその中に素っ頓狂で微笑ましい可愛らしさが時折顔を出すのが素敵で印象的。


己を解放した主人公が鏡の前で口紅を塗って踊りキスする場面には、自分をありのままに表現する術を覚えた女性の喜びがパワフルに溢れていて素晴らしい。
ヤリたい気持ちより食いたい気持ちの方が勝る豪快なセックスシーンもまたパワフルで良い。
とにかく映画全編に異様なパワーとエネルギーが漲っている。

陰毛のムダ毛処理がガッツリ生々しく描かれる(しかもそれが思わぬ惨事に繋がる)等、男性監督だと踏み込めない所にガッツリと踏み込んで行く所に女性監督ならではの視点があって効いている。


主役の姉妹を演じた2人の女優の女優人生を賭けた大熱演には惜しみない拍手を贈りたい。


目を背けたくなる程強烈だけどエネルギッシュで時に人間臭く可愛いらしい、世代を超えて女達が歩む壮絶な獣道。これは他に類を見ないユニークな女性映画が産まれた。


コメント欄にネタバレありの感想を書いておきます。
m

m