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RAW〜少女のめざめ〜のchiakihayashiのネタバレレビュー・内容・結末

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

女性の秘めた欲望をこのうえなく洗練されたかたちで描き直したのがソフィア・コッポラ監督の『ビガイルド 欲望のめざめ』だとしたら、この『RAW 少女のめざめ』はホラー映画というジャンルを借りて、それを極端に振り切ったかたちで描き出した作品だろう。

16歳のヒロインは厳格なヴェジタリアンの家庭から、郊外の獣医科大学の寮に入る。すでに一歳上の姉が在学中のその大学は両親の母校でもあり、新入生は血糊を全身に浴びせられたり、ウサギの生の腎臓を食べさせられたりという〝洗礼〟を受けるのが伝統になっている。そこで彼女は人肉食に目覚めることになる・・・・・・。

文字通りの「肉食女子」。パンフレットの町山智浩のレビューによると、これが長編第1作であるジュリア・デュクルノー監督はさるインタビューで「(この映画における)人食いはもちろんセックスの象徴です」と明言しているそうな。

観客はヒロインに自ずとアイデンティファイし、観客席で身を強張らせながら、彼女の脱皮−−生まれて初めての肉食のためか、彼女の身体は強烈なアレルギー反応を起こし、皮膚が剥ける−−や処女喪失への曲折を見つめることになる。

新入生をこれでもかと痛めつける上級生の振る舞いは、エセの権威を振りかざすこの社会の不条理な抑圧のメタファーだ。

一方、パンキッシュな姉は、神童と呼ばれるほど優等生であるヒロインの「ダーク・シャドウ」であり、姉妹は「本当に心から愛し合っているのです」と監督が語っている通り、否応なしという意味でも暴力的な姉の妹への関わり方は、憎しみが愛と深くもつれ合っていることを示している。

ヒロインがゲイであるルームメイトと、なにかと連むことでなにがしかの関係を築き、遂にはセックスに及んだにもかかわらず、彼がヒロインに対して誠実な態度を貫かなかったが故に、代わって姉が彼を食い殺すのである。

ラスト、母親がヴェジタリアンの仮面の下に人肉食の性癖を隠し通してきたことが明らかになる。しかし、そのように取り澄ますことはもはやヒロインの世代には不可能になっているのだ。

セックスが食うか食われるかの男女間の争闘であるとしたら、赤頭巾ちゃんはいつまでも狼に食われっぱなしではいないという暗示もあろう。

映画は象徴を駆使するメディアだけれども、かくも酷い形式でしか描けないほどに、若い女性の映画作家たちはその反抗心を研ぎ澄ましている。
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