10円様

RAW〜少女のめざめ〜の10円様のレビュー・感想・評価

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
3.6
「エ、エロい映画かと思った…」

序盤から打ち砕きに入る広角図。これは純正な、いや純粋なホラー映画である。エロい映画と言えばいやそれも間違いではない。食と性は表裏対として遺伝子の中に備わっているのだから。少女が人を食らう姿は、セックスに喘いでいるそれと変わらない。

何故人が人を食うか。空腹、敬意、浄化、刑罰から呪術、儀式に至るまでカニバリズムの起源は国や部族により多岐に渡る。旧約聖書には母親が子供を食らい飢えを凌いだと記述があり、紀元前500年にはペルシャ兵が仲間を食料にしたという歴史まである。更に遡れば原人の時代から食人はありふれた事であった。道徳的見地の相違は様々だが、人間は非常に栄養があるらしい。

しかしこの映画はその類の映画ではない。もっとミクロに、タバコや酒やギャンブルを覚えた人がなかなかやめられない。それが食人だった少女の話だ。そこにセックスとカニバリズムをシンクロさせ、二つの欲求になんら違和感なくはまる登場人物を演出できたのはさすがはフランス映画といったところである。淡々と進むどころか、ところどころで目を伏せる描写に不意を突かれるのも新しい。姉妹で立ちションをする一見バカバカしいカットすら何故か愛おしく思える不思議な映画であった。現実では犯罪である行為も、姉妹の拠り所となるあたりに生じるジレンマ。ジュスティーヌはこれから父のように理解ある人に出会えるのかな。解決方法を出せるのかな。なんて考えると絶望しかなくなる。本人もそれを理解しているあたりが少女のめざめというタイトルなのだろう。

「エロい映画と思って見たら悲しい家族の物語だった…立ちションで納得させるとするか。フランス映画にはこれくらいのサービスがなくてはね」
10円様

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