あうれりゃの

RAW〜少女のめざめ〜のあうれりゃののネタバレレビュー・内容・結末

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

食欲と性欲は密接に結びついています。当たり前のように「食う」という言葉が、文脈次第ではそのままセックスの隠語になっているのも、私たち自身食事とセックスが近いものだと無意識に感じているからでしょう。「肉欲」という言葉に現れるように、食べものの「肉」もまた性欲と結びついています。日本語に限らず、食事とセックスの奇妙な類推は他の言語にもあります。

本作はとてもテーマが分かりやすく、ズバリ「少女が大人になる青春成長映画」です。
…こんな青春絶対嫌ですが(笑)

本作は獣医学校に入学したジュスティーヌの「通過儀礼」期間の話です。海外の全寮制の学校ではよくあることですが、要はそれまで家庭で「お子ちゃま」として育てられてきた新入生を徹底的に理不尽な目に合わせ、それを乗り越えた者を仲間として認めることで、甘やかされた子ども時代の終わりと大人への仲間入りをさせる、ある種の「成人式」の役割を担っています。

10代の少女による「拒食症」は、心理学的に大人になることの拒否の意味合いがあると言います。女性らしく性的に変化する自分の体への嫌悪です。
「通過儀礼(これでもか血や肉や男女の裸体が映ります)」をきっかけに、己の内側の獣に気づいたジュスティーヌがすぐに食欲=性欲を認めるのではなく、何度か嘔吐するシーンが入るのも、性欲に対しての少女の必死の抵抗なのでしょう。
皮膚の被れと、それに続く皮膚を剥がすシーンも、自分の内側から膨れ上がるものが自分を「脱皮」させることの比喩として分かりやすくも視覚的に「痛そう」で個人的には好きでした。
またルームメイトのアドリアンをゲイ(バイよりかな?)に設定しているのが面白いと思いました。ストレートの男性なら素直にアプローチを受けて、主人公がセックスを怖がって逃げる。またはあっさり受け入れる、という展開になりがちです。ですがアドリアンはゲイなので、向こうからは手を出してきません。
アドリアンの男性らしさに惹かれるジュスティーヌは、自分なりにこの欲望と向き合って対処しなければなりません。その対処のイカレ具合が、本作の1つの見どころでしょう。後半はジュスティーヌの唇が誰かの皮膚に近づくたびに、観る側に緊張が走ります。

また序盤では良き導き手だった姉も後半ではどちらかと言うとジュスティーヌの内なる獣そのもの、という感が強くなってきます。あの噛みつき合う壮絶な姉妹喧嘩も、「酒に酔って痴態を晒した自分自身を責めてのたうちまわる二日酔いの朝」と考えると、それこそ「大人」なら誰でも思い当たるのではないでしょうか?(笑)

ラストの衝撃の事実についても、「お嬢さんたち!遊ぶのもいいけど、生涯のパートナーはちゃんとあなたを理解してくれる人を選ぶんだよ!」という監督からの温かいメッセージに受け取れなくもないですね(笑)実際、セックスの不一致は離婚の原因にもなる重大な問題ですし。

他にも、とうとう血を舐めて指にしゃぶりついた瞬間の「あー!もう後戻りできんぞ」感を渋い音楽で演出してたり、序盤に主人公の「優等生的な未熟さ」を強調するシーン(テストの間違いを指摘されて少しゴネたり、お節介にも姉のレジュメに訂正を入れたり)を積み重ねていたりと、説明的にならずに、かつ分かりやすく作ろうとする監督の丁寧さが伺えるいい作品でした。
あと母親の描写がいいですね。命令口調で我が強いです。ラストシーンを見れば母親の厳しさは、恐れからだったのだろうと推察できますが。
カニバリズムを犯したサイコキラー達の多くが、母親から異常な性の嫌悪感を植え付けられていたり、そもそも不能だったりするのもこの映画の背景として機能している気がします。

長くなりましたが、こりゃいいの観たわ!
あうれりゃの

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