このレビューはネタバレを含みます
成瀬のDVDボックスを買って以来、ずっと観直さねばと思っていた本作。小津が撮れない写真とはどんな写真だろうというミーハー心で初めて手に取った本作はすっかり私にとって映画のバイブルとなってしまった。脚本、演技、演出、、前回の観賞から1年半近くたっているというだけあって、何をやろうとしているかが大分わかるようになってきたのは我ながら嬉しい。成瀬の作品からもっといろいろなものを吸収して自分の作品作りに活かしていきたいものだ。
1回目:2021年1月29日
流石、日本映画界の巨匠・小津安二郎が自分には撮れないと言っただけのことはある。現代では単なる浮気モノのメロドラマとして片付けられてしまうような映画がどうしてここまで気品に溢れ、壮大な物語になりうるのだろう。敗戦後という時代背景、その時代を生きた人々、彼らが作る街並み、、いずれの要素が欠けたとしても本作のような世界観は生み出すことができない。
それに限らず、映画という虚構の中に強いリアリティを感じるのは、この時代の日常の切り取り方があまりにも巧みだからに違いない。物語の運びに伴う、カメラワーク、構図、、溝口や小津のようないかにも芸術と言ったショットは観られないものの、どこか体に染み渡ってくる心地よさを感じるのが成瀬作品である。何より最後の言葉が作品に締りを与えている。
花のいのちはみじかくて
苦しきことのみ多かりき
「花」はきっと女性のことだろう。女性はいつの時代も悲劇の主人公である。これはどの土地においても例外はない。もちろんこれはあくまで映画や小説、舞台上の設定であって現実世界における女性蔑視では決してないのだが、日本で言えば源氏物語の時代(あるいはそれ以前)から、本作の言葉を借りるなら、身分に関係なく女は誰もが単なる女であった。それはこの映画におけるヒロインもまた例外ではなかったのである。
久し振りに邦画を楽しむことができた。ここまで品性高く、ユーモアにあふれた作品も稀有である。ぜひもう一度見たい。