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浮雲の小のレビュー・感想・評価

浮雲(1955年製作の映画)
3.8
成瀬巳喜男監督の代表作、しかも「午前十時の映画祭7」上映映画だから間違いなかろうと思い鑑賞したけど、これはちょっと好みではないかも。男女2人の主人公に全く感情移入できず、勝手にやってくれって感じ。

高峰秀子演じる幸田ゆき子が、富岡兼吾と離れてはヨリを戻す物語。この富岡がとんでもない男。女と見るやかたっぱしから手を出しつつも、ゆき子と付き合い続ける。そんなひどい男なのに、ゆき子も何故か富岡と離れられない。

1955年当時、大ヒットしたらしいけど、その時代ならではの映画なのだろう。男にとって都合のよすぎるこの物語、現代においてリアリティはほとんど感じられない。

成瀬監督は、この時代の巨匠と呼ばれる監督のように自らの作家性を主張するというよりも、娯楽映画を手際よく作る職人監督として評価されていたらしい。成瀬監督自身も「映画は映画館で上映される数週間だけの命である」という姿勢だったみたいだし。

小津安二郎監督が「俺にはできないシャシンだ」と褒めたらしいから、その映像は素晴らしい模様だけど、わからない自分が残念。ただ、高峰秀子の演技はさすがと思った。

それにしても、2人は腐れ縁よろしく、何故こうもくっついたり、離れたり繰り返すのだろうか。ウィキペディアによれば、<脚本を書いた水木洋子はその別れられない理由について「身体の相性が良かったからに決まっているじゃない」といった類の発言をしている>とのこと。

そんな理由かい、という気もするけど、そんな理由しかない気もする。やはり話の内容はメロドラマの域を出ていないのかも。どんなに辛い目に合わされようとも、一人の男性を一途に思い続ける女性。そんな女性に多くの人が共感した時代だったのだろう。

一方、観客動員できる映画を、手際よく作ってくれる監督は、作品性にこだわる気難しい監督よりも、興行側にはありがたかったかもしれない。

職場において、無難に人付き合いしながら淡々と仕事をこなしていく人と、気難しく平凡な仕事をしたがらない半面、たまに目を見張るような凄い仕事をする人がいるとすれば、成瀬監督は前者のような人なのだろう。そう思うと、この作品に親しみを感じてくる。
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