よしまる

浮雲のよしまるのレビュー・感想・評価

浮雲(1955年製作の映画)
3.4
成瀬巳喜男監督の日本映画史に残る傑作。
キネ旬の「映画人が選ぶオールタイムベスト100日本映画」で1999年に2位、2009年には3位。
しかも小津安二郎が自分の撮れない映画と認めている。なんすかそれ!
以上が鑑賞前の情報。

さてさて、なにやら中近東をイメージさせるBGMがやたらと耳につく。スーパーマリオの砂漠ステージの曲が被ってなんとも不思議な気持ちになったw
この楽曲が当時モダンなのかエスニックなのか、第一合ってるのか合っていないのかさえもわからないまま、お話はグイグイ進み、圧倒される。とにかく主役の富岡のゲスい理屈の捏ね回しがイラつかせるが、あまりにテンポが良いので女じゃない俺でも妙に納得してしまったり、愛想を尽かしてしまったり、全く尋常ではいられない。
一方でいくらでも好きな生き方が出来たであろうにクソ男のせいで何度も人生を履き違えるゆき子は、常に自分の信念に基づいて強く生きているようで惚れた女の弱みとばかりに悲劇を繰り返す。これを男が描いてたらこうはならない、なり得ない。
やはり女性作家の書いた小説ならではの、自虐的で高潔で儚い物語だ。
そこのところの揺れ具合を鋭く切り取っていく演出はさすがだし、ツライ過去を背負いながらお役人からパンパンまでをまるで七変化のように演じ分ける高峰秀子の麗しさだけでも見る価値はある。
けど、そもそも他人のゲスい話はどの時代にあっても観てて面白いものではなく、それがすなわち普遍性であったとしても、ボクには何の感想もございません、という映画であったw

キスシーンさえまともに映すことのできないほどの規制の厳しかった時代に、当時の人々が何を思いこの映画に感動したのかは気になるが、映画人が選ぶオールタイムベストで上位にいることはまったくどうでもよい。
そんなことよりボクにとってはフィルマのフォロワーさんたちのオールタイムランキングのほうがよほど気になるのだ。