しの

シュガー・ラッシュ:オンラインのしののレビュー・感想・評価

3.8
ネット世界の落とし込み方が楽しいだけでなく、ネットの正負両側面をドラマに利用している。いつでもどこでも繋がれて、無限に選択肢が広がる世界で、「新たな自分」を探す物語。ネタに頼りすぎな部分はあるが、サラッと自己実現のテーマを描く手腕は健在。

前作は徹底的にゲーム筐体の内部世界を描いたが、本作は序盤から広大なインターネットの世界へ飛び出す。また、前作はラルフの自己実現を軸にヴァネロペとの絆を描いたが、本作はヴァネロペの自己実現を軸に関係性の変化が描かれる。色んな意味で好対照。

前作で描かれたラルフの物語の象徴である「ヒーローのメダル」は、本作では彼を縛るものとして描かれる。前作から6年が経過したことで、レトロから現代へというモチーフの変化、更には並行してラルフとヴァネロペの関係変化が描かれる。前作の要素を巧みに利用し発展させるので、続編としての意義深さは十分。

インターネットという舞台ならではの物語を紡ごうという気概も感じる。まず、ネットがヴァネロペに無限の選択肢を与えることでドラマが発生する。変化に付いていけないラルフの姿は、子離れできない親のようでもある。ちょっとした思い付きが世界を巻き込む大騒動になるのもネットの恐さ。最後は「どこでも繋がれる」ことが二人の友情を強調する。

このように、ビジュアルの楽しさやコンセプトの強固さは前作に引けを取らないが、物語はやや惜しい。特に中盤で間延びした感じがあった。ネタに振るならレディプレ並みに振り切って欲しいし、そうでないならストーリーをもうちょっと……。

具体的な問題点。前作で、ラルフはヴァネロペのヒーローになることで、与えられた社会的ペルソナとの相克を乗り越える。彼は世界でなく自分の内面を変えたのだ。一方、ヴァネロペの場合は相克の乗り越え方が真反対で、これが二人の「違い」を表しており、それは本作のテーマでもある。……というのは分かるが、描き方がちょっと安易な気がする。ヴァネロペが一応プリンセスとなった前作を踏まえれば、あるいはそもそも「ハンドルを探す」という動機から始まったなら、そこに対する落とし前は必要だろう。(自分なりの改善案:https://fse.tw/AU6Vy#all ※ネタバレ有り)

あと、サブキャラをもっと活かして欲しかった。シャンクやイエスら新キャラと、ゲームセンターの面々が共闘し、オフラインとオンラインの融和を描く……位のスペクタクルは欲しい。せっかくあれだけ魅力的な作品世界を作り上げて、しかも現実としっかり連動するように描いているのだから、それをラルフとヴァネロペの関係性を描くためだけに使ってしまうのは勿体ない。

ネット社会・ネット文化のポップにカリカチュアライズされた描き方、ディズニープリンセスという概念への自己言及など、その一要素だけでも意義深く思えるような強烈な要素が多かった分、意外に安易でこじんまりした話に収斂していくのがもどかしい一作だった。
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